冷温停止(読み)れいおんていし

  • れいおんていし〔レイヲン〕

知恵蔵の解説

核分裂を抑制し、核分裂が一定の割合で持続するという臨界状態から脱却させ、温度を下げて安全に原子炉を停止させること。
原子炉は、制御棒(核分裂によって生まれる中性子を吸収する素材でできている)を核燃料の間に挿入し、核分裂の連鎖反応を抑制することで停止させることができる。制御棒の挿入で、臨界を脱すると、原子炉の出力は低下し、炉心の温度も下がる。
日本の商用原子炉で採用されている軽水炉では、減速材(中性子が核燃料と効率良く反応するように速度を下げるためのもの)として軽水(普通の水)を利用する。同時に、原子炉から熱を取り出す冷却材としても水を用いている。水の沸点が100度であるのに対して、定常運転中の原子炉の炉心温度は300度前後になる。燃料棒交換などに際しては、炉内の水の温度が100度未満となり、継続的で安定した冷却が保たれ、放射性物質が放出されない状態にする必要がある。この状態を維持することを「冷温停止」という。

2011年3月に起きた福島第一原子力発電所の事故では、東京電力は、同年4月に発表した工程表にて「冷温停止」を3~6カ月で達成するという目標を掲げた。ただし、「冷温停止」とは原子炉の正常な運転状態について使用していた言葉であり、事故によって暴走した原発について定義するものではない。菅直人首相(当時)により、自らの辞任時期と「冷温停止」を絡めるかのような発言がなされたことなどもあいまって、何をもって「冷温停止」と判断するかが問われた。
同年11月の工程表改訂版では、一般的な冷温停止の定義を準用し、原子炉の圧力容器底部の温度が100度以下になり、放射性物質の放出を管理、被曝(ひばく)線量を大幅に抑制できることを「冷温停止状態」として、その「状態」がほぼ達成されたとした。更に、同年12月には野田佳彦首相が記者会見で「冷温停止状態」を宣言した。しかしながら、原子力・安全保安院が開いた会議では、山口彰大阪大教授が、メルトダウンを引き起こし燃料が漏れ出した原子炉の圧力容器底部の温度にどれほどの意味があるのかと疑問の声を寄せ、工藤和彦九州大特任教授は、冷却装置が失われた「注水停止」とでもいうべき状態だと指摘している。格納容器や建屋の密閉機能を失い、核燃料がどのようになっているのかも分からず、長大なホースを引きまわした仮設装置で注水を続けているのが現状である。

(金谷俊秀  ライター / 2012年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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