日本大百科全書(ニッポニカ) 「温度」の意味・わかりやすい解説
温度
おんど
物体の寒暖の度合いを数量的に表すもの。気温、水温、体温というように、温度はわれわれの日常生活と密接に関係している量である。物理学的には物体間で熱のやりとりをする際に重要な役割を果たす熱平衡状態を指定するパラメーターの一つである。
[宮下精二]
温度の決め方
異なる温度をもつ状態の間には、熱の流れが生じて同じ温度になろうとする性質(熱力学の第二法則)がある。熱平衡状態では同じ温度になり、エネルギーのやりとりがつり合った状態になる。この性質を利用して、アルコールや水銀などの体積によって温度を定量化する温度計が可能となる。また、ボイル‐シャルルの法則を利用して気体の圧力P、体積Vを用いて
として決めるのが、気体温度計である。ここで、nは粒子数をモル数で表したもの、Rは気体定数である。実際、理想気体に近い気体を用いて、氷の溶ける温度を0℃、1気圧の大気中で水が沸騰する温度を100℃として、目盛りを決めたのが摂氏温度である。この決め方では、気体の体積がゼロになる温度は-273℃(正確には-273.15℃)となり、これを絶対零度という。また、絶対零度を基準として℃と同じ間隔で温度を目盛ったものを絶対温度目盛りという。現在では単にKの記号を使う。たとえば、0℃を絶対温度で表すと273Kとなる。異なる目盛りの取り方として、氷の溶ける温度を32度、水の沸騰する温度を212度とし、その間を180等分して1度とするのが華氏温度(かしおんど)である。
温度の定義で用いられた理想気体の内部エネルギーは
と表される。ここでNは粒子数、kBはそれぞれボルツマン定数である。アボガドロ数をNAとするとR=NAkBである。理想気体の内部エネルギーは個々の粒子の運動エネルギーの和であるため、この関係から、
であることがわかる。このことから、温度は分子運動の激しさを表す量とみなすことができる。
温度の同定は必ずしも気体の体積によるものではなく、電気伝導度などによってもできるので、さまざまな温度計が可能となる。いわゆるデジタル温度計は電気的な性質を用いている。また、物質の色の変化を用いた温度計もある。
[宮下精二]
温度変化と物質の状態、性質
温度が上がると物体の内部エネルギーは上昇し、体積などが変化する。さらに、氷、水、水蒸気のように同じ物体でも温度によって巨視的な形態が変わることがあり、相転移とよばれる。上で述べた温度の目盛りを決める際にもこの相転移が起こる性質を用いた。しかし、実際に相転移点は圧力によって変わるため、正確な定義には氷、水、水蒸気が共存する三重点が用いられる。さらに、温度を上げ数万度になると分子は分解し、プラズマ化する。原子核が分解するにはさらに高い温度が必要となる。加速器では高速の粒子を衝突させ、非常に高い温度を実現し、物質の構造のより詳しい情報を得ようとしている。ただし、そのような場合は熱平衡状態の温度というより、平均運動エネルギーをp2/2m=1/2kBTで換算した値というべきである。また、宇宙の始まりのビッグ・バンは非常に高い温度から出発し、膨張によって諸物質が生成されたとされ、現在の温度は3Kであるとされる(2012年時点)。この温度は、宇宙からの放射のスペクトルから決められたものである(「宇宙背景放射」「プランクの放射公式」の項参照)。
電気抵抗も温度によって変化する。電気伝導を担う金属内の電子は格子の熱振動で妨げられるため、温度が上がると電気抵抗は大きくなる。しかし、半導体とよばれる物質では、温度が高くなると電気伝導を担う電子や正孔の数が増え、電流が流れやすくなる。また、超伝導とよばれる現象は電子の運動に関する量子力学的な相転移である。
[宮下精二]
温度と生物
温度は生物の各種の生理作用に影響を及ぼす。生体内の化学反応や生理作用が、温度によってどれだけ変わるかを示すのに温度係数が使われる。たとえば、ジャガイモの葉の同化作用は5℃近傍では、温度が1℃上がるたびに1.27倍になる。この1.27という数値がこの場合の温度係数である。一般に、化学反応の反応速度は、物質の濃度が同じであれば、温度が10℃上昇すると2~3倍になる。この倍数も温度係数とよばれる。
われわれが実際に感覚する温度は、かならずしも物理的な温度と一致しない。気温が同じ30℃であっても、風があるかないか、湿度が高いか低いかなどによって温度の感じ方が異なってくる。とくに湿度が高いと蒸し暑く感じるが、このような感覚を表す量としてよく不快指数が用いられる。
[阿部龍蔵・宮下精二]