…現代でも,山陰から北陸にかけて女性が従事する冬の岩場での〈海苔(のり)つみ〉つまりイワノリ採取も,遠浅の砂浜海岸で春の大潮に家族づれでにぎわう〈潮干狩り〉もいわばこのような原初形態の漁労活動のなごりであるし,草根の毒を使って干潟や水たまりの小魚を捕らえる〈毒漁poison fishing〉も,このような採集文化の延長上にあるといってよい。この段階で,道具を使用しはじめる場合,これも最初は陸上の他の作業に使う道具をそのまま水辺に転用することが多く,たとえば《万葉集》の国栖(くず)(大和地方)人が行ったという〈火振り漁〉は,片手にかざした灯火に集まってくる川魚を,鉈(なた)の背でたたくという形で最近までそのまま踏襲された漁法であるし,スールー海(フィリピン南部)の浅い磯で腰まで浸りながら左手にかざしたカンテラの火に集まる魚を右手のボロ(山刀)で水面上からすばやく切りつける〈魚切り漁〉も,そのようなありあわせの道具を使用した初期的段階のものである。
[諸類型]
陸上の狩猟文化と対比される漁労文化は,動物を〈追っかけていってつかまえる〉または〈待ち伏せしてつかまえる〉という行為であって,この論理はそのままの形で近代漁業にまで続いている。…
※「火振り漁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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