…古代・中世・近世へと時代を追うにしたがい,日本人は〈かげ〉を合理的に受け取るように変化していった。 最後に,〈かげ〉を,かげり,くもり,くらがりとしてとらえ直し,そこにこそ日本伝統美が存在することを確かめようとした谷崎潤一郎の長編随筆《陰翳礼讃》(1933)のあることを忘れてはならないであろう。日本家屋(とくに厠),漆器,食物などが〈常に陰翳を基調とし,闇と云ふものと切れない関係にある〉と見る谷崎は,〈美と云ふものは常に生活の実際から発達するもので,暗い部屋に住むことを余儀なくされたわれわれの先祖は,いつしか陰翳のうちに美を発見し,やがては美の目的に添ふやうに陰翳を利用するに至った。…
※「陰翳礼讃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」