こう【公】
[1] 〘名〙
① かたよらないこと。偏頗(へんぱ)のないこと。平等。
※永平道元禅師清規(13C中)知事清規「所レ謂為公者、無二私曲一也」 〔書経‐周官〕
② 明らかなこと。かくさないこと。あからさまなこと。〔漢書‐呉王濞伝〕
③ 朝廷。公儀。役所。官府。
おおやけ。また、社会、世間。
※教育に関する
勅語‐明治二三年(1890)一〇月三〇日「一旦緩急あれば義勇公に奉じ」
④ 旧華族制度
五等爵の第一位。ヨーロッパの貴族の階級についても用いる。公爵。
※
華族令(明治四〇年)(1907)二条「爵は公侯伯子男の五等とす」
※菅家文草(900頃)二・講書之後、戯寄諸進士「勧道諸生空赧レ面、従レ公万死欲レ銷レ魂」
※
今昔(1120頃か)九「我、東海の公に見えて、以て我を記室とせむと為るに」
⑥
王公家軌範(
一九二六)による旧韓国の
公家を継いだ皇族待遇者。日韓合併の時、勅旨によって韓国の李
および李
を公としたのに始まる。
⑦ 父、舅など、一般に長者や、貴人を敬っていう語。
※延慶本平家(1309‐10)四「群公郷士受領廷尉三十九人」 〔
賈誼‐論時政疏〕
[2] 〘代名〙
① 対称。同等の者に用いる。古くは
目上の者に対して用いた。貴公。
※玉塵抄(1563)一六「文始悦で趙をほめて公は名家の駒と云たぞ」 〔史記‐鼂錯伝〕
② 男子の
自称。
目下の者に向かって、また自らを尊大にいうときに用いた。
乃公(だいこう)。〔杜牧‐題禅院〕
[3] 〘接尾〙
① 貴人の姓名などに添えて敬意を表わす。
※延慶本平家(1309‐10)四「太政大臣師
長公を始として」
② 同輩、もしくは目下の者の名前に付けて、親しさや、軽い軽蔑の意を表わす。近世以降の
用法。
※
浄瑠璃・仏御前扇車(1722)二「長公、お慈悲お助けと顫
(ふろ)ひ
戦慄(わなな)き三拝答拝」
おおやけ‐し おほやけ‥【公】
〘形シク〙 (
名詞「おおやけ」を
形容詞化したもの)
物事に対する
態度が、公式的な、ある定まった
仕方に従っているさま。表だっている。格式ばっている。折り目正しい。おおやけおおやけし。
※枕(10C終)一〇四「おもていとしろくて、下(しも)などとりつぎまゐる程、これはたおほやけしう、唐めきてをかし」
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デジタル大辞泉
「公」の意味・読み・例文・類語
こう【公】
[名]
1 国家や社会の全体に関係する事柄。おおやけ。「一身を公に奉ずる」⇔私。
2 華族制度で、五等爵の最上位。公爵。
[代]二人称人代名詞。あなた。貴公。
「―のおむかひに出たのぢゃ」〈洒・遊子方言〉
[接尾]
1 地位の高い人の姓名に付いて、敬意を表す。「伊藤博文公」
2 人名の略称などに付いて、親愛の情、または軽い軽蔑の意を表す。「熊公」「八公」
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公
おおやけ
「私(わたくし)」に対するもので、個人的でない事柄をいう。原義は「おお」(大)「やけ」(家、宅)で、宮殿や屋敷などの大きな建築物を意味した。転じて、そのような場所で行われる仕事、その所有者、そこに住む人間などを意味するようになり、政府、朝廷、官庁、また天皇家や天皇、皇后、中宮などをもさした。現代では、国家、社会など公共に関する事柄や、世間一般、表向きの面に関する意味で用いられる。
[藁科勝之]
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公
きみ
大和政権下の姓 (かばね) の一つ
「君」とも書く。豪族の首長の尊称が姓とされた。筑紫,上毛野など地方の有力豪族のほか,大王の子孫と称する畿内周辺の中小豪族にも与えられた。759年,「君」はすべて「公」に改められた。
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世界大百科事典(旧版)内の公の言及
【公地公民】より
…すべての土地と人民は朝廷に属するとし,豪族の私地私民に対立する概念。大化改新によって私地私民を廃止し,公地公民の政策が打ち出され,約半世紀後の大宝律令の施行によって公地公民制が確立したというのが通説である。しかし,すでに中田薫が指摘しているように,律令においては,口分田(くぶんでん)は私田とされていた。…
【私】より
…したがって,私の原イメージは農耕する民衆の姿である。これに対して,公(おおやけ)は,大宅,大家から,皇居,天皇,朝廷,政府,国家,社会などを意味するようになった。公共,公正,公論と私腹,私欲,私論の対比にみられるように,公がプラスの価値であり,私がマイナスの価値であるとされてきた。…
【君】より
…日本古代の[姓](かばね)の一つ。公とも表記され,古くは有力豪族の尊称で首長の意。大和国家の王者が大王(おおきみ)と称するようになると,君は姓としてしだいに位置づけられ,その中で大王は君(公)の中の大なるものとして諸豪族に超越する立場を獲得した。…
【氏姓制度】より
…日本古代において,中央貴族,ついで地方豪族が,国家政治上に占める地位,社会における身分の尊卑に応じて,朝廷より[氏](うじ)の名と[姓](かばね)をあたえられ(氏・姓(かばね)をあわせて[姓](せい)ともいう),その特権的地位を世襲した制度。大化改新ののち,律令国家におよぶと,戸籍制によって,氏姓はかつての部民(べみん),つまり一般の公民にまで拡大され,すべての階層の国家身分を表示するものとなり,氏姓を有しないものは,天皇,皇子,諸王と奴婢のみとなった。
[政治制度としての氏姓制度]
このような制度は,原始共同体において,氏族や部族が社会の単位となった,いわゆる氏族制度とは異なる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」