精選版 日本国語大辞典 「控・扣」の意味・読み・例文・類語
ひか・える ひかへる【控・扣】
[1] 〘自ア下一(ハ下一)〙 ひか・ふ 〘自ハ下二〙
① 進まないで待つ。待機する。
※兼盛集(990頃)「釣舟のつりのを垂れて、みづの上にひかへたり」
② 傍にかまえる。側にじっとしている。手を出さないでおとなしくする。
※落窪(10C後)三「まこと、かの物縫ひし夜ひかへたりけるは此の君也けりと」
[2] 〘他ア下一(ハ下一)〙 ひか・ふ 〘他ハ下二〙
① おさえて引きとどめる。引きおさえる。つかまえる。おさえつける。
② 内輪にする。節制する。遠慮する。
※古今著聞集(1254)一「もしたのみしにほこりなばいかがと思ひ候へばひかへて侍り」
③ 留めておく。残しておく。待機させる。
※親元日記‐寛正六年(1465)一〇月一二日「越筥根山相州扣馬候。近日武州え可進御旗候」
④ 見合わせる。やめにしておく。
※宇治拾遺(1221頃)一四「その一事をばひかへて、教へざりけり」
⑤ にぎる。つかむ。手にとる。
⑥ 引く。引っ張る。
※落窪(10C後)一「下襲は縫ひ出でて、表衣折らんとて、いかで、あこぎ起さんとの給へば、少将、ひかへんとの給ふ」
⑦ 側に準備する。手元におく。
※説経節・をくり(御物絵巻)(17C中)八「なにがしがなにがしに、しょりゃうをそへて、たまはるうへ、なんのしさひのあるべきと、ひとつたんぶと、ひかへたまへば、しももしだひにとをるなり」
⑧ 時間的・空間的にその近くに位置を占める。
※永日小品(1909)〈夏目漱石〉暖かい夢「遠くの向ふに、明かな日光の暖かに照り輝く海を控(ヒカ)へて」
⑨ 手元に書き留めておく。後日に備えて記録しておく。メモする。
※断橋(1911)〈岩野泡鳴〉一一「かう、義雄の手帳に控へられた」
[補注]室町時代頃からヤ行にも活用した。→ひかゆ(控)
ひかえ ひかへ【控・扣】
① ひきとどめること。とめること。
② 内輪にすること。十分にしないこと。見合わせること。残しておくこと。遠慮すること。
※重刊改修捷解新語(1781)一「わかままなことおひかゑなしにかやうに申ますほとに」
④ 後日の用のために記録しておくこと。また、そのもの。また、正式の書類とは別に、写しとしてとっておくもの。
⑤ 傍にあって加護すること。神仏などが、そばにいて助け守ること。
※浮世草子・新可笑記(1688)二「仏神のひかへにして二たびよみがへりのあるまじき事にもあらす」
⑥ 時の来るのを待つこと。待機すること。また、そのための場所やその人。また、主たる室に付属する部屋。
※格子の眼(1949)〈島尾敏雄〉「その下の暗い板の間は、明るい広い店の間の次の控えで」
⑦ 立花で、請(うけ)と流(ながし)の間に添えて、左右のつりあいをとる枝。控枝。また、その配置。
※男重宝記(元祿六年)(1693)三「扣枝(ヒカヘ)は、副(そへ)のたけにひとしきはあしし」
⑧ 馬をつなぎとめる綱。
※浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)三「朽たる縄のひかへにて、荒たる駒は留るとも、頼なきは人心」
⑨ 石積みで、他の石より多く壁の中に入りこんで倒壊するのを防ぐ石。〔日本建築辞彙(1906)〕
⑩ 和船を櫓で漕ぐとき、船首を左へ向けること。また、舟方の語で、小舟で、櫓によって取舵(とりかじ)にすること。⇔おさえ。
⑪ 壁、建物などが傾くのを防ぐ支え。〔日本建築辞彙(1906)〕
ひか・ゆ【控・扣】
(ハ行下二段活用の「ひかふ」から転じて、室町時代頃から用いられた語。多くの場合、終止形は「ひかゆる」の形をとる)
[1] 〘自ヤ下二〙 =ひかえる(控)(一)
※義経記(室町中か)八「我朝に於て御内の御座所に馬に乗りながらひかゆべきものこそ覚えね」
[2] 〘他ヤ下二〙 =ひかえる(控)(二)
※虎寛本狂言・縄綯(室町末‐近世初)「惣て縄と申ものは跡をひかゆると」
※浄瑠璃・用明天皇職人鑑(1705)職人尽し「御衣の袂をひかゆれば」
ひか・う ひかふ【控・扣】
〘自他ハ下二〙 ⇒ひかえる(控)
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