[1] 〘名〙 (「馬」の字音「マ」の転じたものという。平安以降、「むま」と表記した例が多い)
① ウマ科の家畜。体高一・二~一・七メートルぐらい。首は長く、まえがみとたてがみがあり、尾は長毛で覆われ、草食性で臼歯
(きゅうし)が発達している。体毛は褐色、
黒色、赤褐色、白色などで、古くから鹿毛
(かげ)、青毛、栗毛、葦毛
(あしげ)などと呼ばれる。ヨーロッパ、アジアの
原産で、世界各地で家畜として飼育。品種はアラブ、サラブレッドなど数十種あり、日本産のものでは、南部馬、三春馬
(みはるうま)、最上馬、仙台馬などが知られていたが、現在なお、在来種の
面影を保っているのは、木曾馬、
御崎馬(みさきうま)などだけである。農耕、運搬、乗馬、競馬などに用いられるほか、肉は食用、皮は革製品にされる。こま。
※書紀(720)推古二〇年正月・歌謡「宇摩(ウマ)ならば ひむかの駒」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「我がむまをば奉りて、御供に」
② (座興、または芝居として) 馬のまねごとをすること。また、その役。
※台記‐久安六年(1150)二月一四日「上御二女御廬一遊戯、余為レ馬、上乗レ之、上為レ馬、女御乗レ之」
※
咄本・鹿の巻筆(1686)三「はじめての役者なれば、人らしき芸はならず、きり狂言の馬になりて」
③ 馬をかたどったり、馬の名称を用いたりした玩具、遊戯用具や道具。
(イ) 馬の形に似せて作った玩具。木馬などをはじめ、その種類はきわめて多い。
(ニ) すごろくのこま。
※枕(10C終)一三九「所避
(さ)りたる物忌・むまおりぬ
双六」
(ホ) 将棋のこまで、桂馬または、成角
(なりかく)(=龍馬)の略。〔
日葡辞書(1603‐04)〕
(ヘ) 天正カルタ、
ウンスンカルタ、めくりカルタの組み札の一つで、騎馬の絵があるもの。
※咄本・鹿の巻筆(1686)一「馬四枚は
文殊、
普賢、観音、勢至」
④ 紋所の名称の一つ。馬にかたどったもの。放馬(はなれうま)、羈馬(つなぎうま)などがある。
⑤ 馬に似ていたり、馬を連想させたりするもの。
(イ) (馬のように大きいという意から) 姿や形が大きすぎるもの。
※雑俳・柳多留‐七(1772)「馬ほどななりでおどり子よばりなり」
(ロ) 大きな男根、また、その所有者をいう隠語。
※浮世草子・好色伊勢物語(1686)三「一説に女郎のゐめうを馬といふ、心は人をのせてすくるといふ事也とぞ」
(ニ) (馬の腹帯に似ているところから)
月経時に用いる
丁字形の帯。転じて、月経。おうま。
※雑俳・柳多留‐三七(1807)「二の午は娘勝手をよく覚え」
⑥
遊女屋、料理屋などで、勘定不足または
不払いの代金を取り立てるために客について行く者。つけうま。つきうま。
※雑俳・柳多留‐四二(1808)「借豆をくった跡から馬かつき」
※俳諧・炭俵(1694)下「上(うは)をきの干葉刻(きざむ)もうはの空〈野坡〉 馬に出ぬ日は内で恋する〈芭蕉〉」
⑧ 競馬(けいば)をいう。
※冬の宿(1936)〈阿部知二〉一四「馬には勝って金はあるからこの前の借金は払ふのだし」
[2] 〘接頭〙 動植物などで、同種類のもののうち大きなものを表わす語。「うまびる」「うまうど」「うまぜり」
[語誌]神馬として
神社に奉納されたり、競馬により
豊凶を占ったりする神聖な動物であると同時に、
軍事・交通・農耕などの面にわたって実用的な動物でもある。
年中行事にも「白馬の節会」「駒牽き」「競べ馬」「駒迎え」など馬が登場するものが多く見られる。鎌倉から
室町時代にかけては「流鏑馬」「笠懸け」「犬追物」というような弓馬の術が栄えた。中古以降、歌語は「こま」。