…だから日本では,ディケンズやゾラやホイットマンのような,鉄道をアクチュアルな社会の象徴として登場させる文学者は生まれようがなかった。《雨,蒸気,スピード》(1844)で汽車を絵画に導入したJ.M.W.ターナー,蒸気機関車の動きを管弦楽曲として《パシフィック231》(1923)で表現したA.オネゲル――なお,〈231〉とは機関車の先輪軸,動輪軸,従輪軸の数を示すフランス風表示法で,英米では〈パシフィック〉型と呼ぶ――,アメリカのペンシルベニア鉄道の電気機関車の形態もデザインした工業デザイナーR.F.ローウィ,映画史に名を残す《鉄路の白薔薇》(1922)の監督A.ガンスのような芸術家が,これまで日本に出なかったのも理由のないことではない。 これに反して独特の旅情をたたえた内田百閒の《阿房列車》や幻想味豊かな宮沢賢治の《銀河鉄道の夜》のような,日本独自の鉄道文学がこれまで生まれた。…
※「パシフィック231」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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