良・善・好・吉・佳・宜(読み)よい

精選版 日本国語大辞典 「良・善・好・吉・佳・宜」の意味・読み・例文・類語

よ・い【良・善・好・吉・佳・宜】

〘形ク〙 よ・し 〘形ク〙 物事本性、状態などが好ましく、満足すべきさまであるの意。「あし」「わるし」に対していう。古くは「よろし」よりも高い評価を表わす。くだけた口語表現では終止形・連体形が「いい」の形をとる。
[一] (正邪善悪の立場から) 理にかなっている。正しい。正当である。善である。
書紀(720)継体七年一二月(前田本訓)「賢(さかしきひと)は善(ヨキわさ)為るを最も楽とす」
※宇治拾遺(1221頃)一〇「おほやけの御政をも、よきあしきよく知りて」
[二] 性質、状態、機能、様子などが、比較的、相対的にすぐれていて好ましい。まさっている。
① すぐれている。立派である。上等である。条件が整っていて、好ましい。
※書紀(720)推古一四年五月(岩崎本訓)「今朕、丈六の仏を造りまつらむが為に、好(ヨキ)仏の像を求む」
徒然草(1331頃)六〇「よきいもがしらを選びて、ことに多く食ひて、万の病をいやしけり」
② 美しい。醜くない。奇麗である。優美である。
万葉(8C後)一四・三四一一「多胡の嶺に寄せ綱延(は)へて寄すれどもあにくやしづしその顔与吉(ヨキ)に」
※和泉式部日記(11C前)「十二月十八日、月いとよき程なるに、おはしましたり」
※みだれ髪(1901)〈与謝野晶子〉舞姫「おほつづみ抱へかねたるその頃よ美(ヨ)き衣きるをうれしと思ひし」
③ 美味である。
※霊異記(810‐824)中「門の左右に蘭(かうば)しき(ヨキクラヒモノ)を備けて諸人楽しび食ふ。〈国会図書館本訓釈 ヨキクラヒモノ〉」
④ 健康的である。身体の調子がすぐれている。
蜻蛉(974頃)中「よからずはとのみ思ふ身なれば、〈略〉にはかにては、おぼしき事もいはれぬものにこそあなれ」
※はやり唄(1902)〈小杉天外〉六「一日も速く癒(ヨ)くならなきゃ損なんだもの」
⑤ 賢い。さとい。聰明で立派である。博識である。教養がある。
※書紀(720)仁徳即位前(前田本訓)「豈、能才(ヨキかと)有らむとしてなれや」
※天草本伊曾保(1593)尾長鳥と、孔雀の事「サイチ yoqu(ヨク)、ゲイ タニ スグレラレタ ジンタイヲ」
⑥ 効果がある。ききめがある。「体によい食物」
※万葉(8C後)一六・三八五三「石麻呂に吾れ物申す夏痩に吉(よし)といふ物そ鰻取り喫(めせ)
⑦ 身分が高い。家柄がすぐれている。尊貴である。卑しくない。
※書紀(720)神代下(鴨脚本訓)「門の前の井の辺の樹の下に、一の貴(ヨキ)客有り」
源氏(1001‐14頃)常夏「よき四位・五位たちのいつき聞えて」
⑧ 家が栄えている。勢力がある。富裕である。
※伊勢物語(10C前)一六「貧しく経ても、猶、昔よかりし時の心ながら」
⑨ 上手である。巧みである。うまい。→よく
※伊勢物語(10C前)七七「とよみけるを、いま見れば、よくもあらざりけり」
※徒然草(1331頃)一二六「其の時知るをよきばくちといふなり」
⑩ こころよい。快適である。楽しい。おもしろい。
※万葉(8C後)八・一四二一「春山の咲きのををりに春菜摘む妹が白紐見らくし与四(ヨシ)も」
※謡曲・西行桜(1430頃)「よきご機嫌に申して候へば、さらば見せ申せとのおんことにて候ふほどに」
⑪ ほめたたえるべきである。→よいかな
⑫ 評判がすぐれている。評価が高い。
※書紀(720)欽明即位前(寛文版訓)「加(また)以て幼くして穎(すぐ)れ脱(ぬけ)て、早く嘉(ヨキ)(な)を擅にし」
⑬ 仲がむつまじい。親しい。うとくない。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「父おとど、よき御なかなり」
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「急に母子折合が好(ヨク)なって来た」
⑭ 利益がある。得である。割に合う。有利である。ためになる。
古事記(712)上(兼永本訓)「我、汝命の為に善(ヨキ)(はかりこと)を作(な)さむ」
真空地帯(1952)〈野間宏〉六「妻帯はしているが、まだ子供がないのでいくらか条件がよいというのは内村だけだった」
⑮ 値が高い。高価である。「よい値がつく」
⑯ 確かである。「記憶がよい」
⑰ (数や量が) 十分である。
※人情本・花筐(1841)初「此方のはうは、衆人(みんな)お腹が満(ヨイ)とまをします」
[三] めぐりあわせに恵まれる。
① めでたい。祝うべきである。吉である。縁起が悪くない。
※古事記(712)中「故、阿佐米余玖(あさめヨク)〈阿より下の五字は音を以ゐる〉汝取り持ちて、天つ神の御子に献れ」
※源平盛衰記(14C前)三六「源氏は軍の手合に、門出能(ヨシ)とて勇けり」
② 幸いである。幸福である。幸運である。
※観智院本名義抄(1241)「喜 ヨシ ヨロシ ヨロコブ」
※白羊宮(1906)〈薄田泣菫〉冬の日「いまの憂身に、そのかみの美(ヨ)き日をしのぶ」
[四] あるべきさまである。ふさわしい。
① 適当である。につかわしい。相応である。
※書紀(720)仁徳二二年正月・歌謡「衣こそ 二重も予耆(ヨキ) さ夜床を 並べむ君は 恐(かしこ)きろかも」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉二「七八年もすぎたら製茶養蚕がさかんになって老少婦女子(をんなこども)のよい職業(しごと)サ」
② 時機が適当である。好都合である。折が悪くない。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「かの仰せ言は、いとよき折に聞えさせてき」
※曾我物語(南北朝頃)一「ここに、祐経が二人の郎等大見、八幡は、これを聞き、斯やうの所こそよき便宜なれ」
③ 欠けるところがない。不足がない。十分である。
※虎明本狂言・二人袴(室町末‐近世初)「はじめじゃ程に、かみしもをばきせたらばよからふが」
④ (転じて、逆説的に) 基準を越えている。十分すぎる。→よい年
[五] 同意できる。承認できる。
① 許される。差しつかえがない。許可できる。かまわない。よろしい。
※古事記(712)下・歌謡「独り居りとも 大君し 与斯(ヨシ)と聞こさば 独り居りとも」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「ソレ吹からに、ネ。よしかへ」
② 仕方なく応ずる。やむをえない。
※虎明本狂言・地蔵舞(室町末‐近世初)「『一夜の宿をかさせられひ』『いやそっとの間もならぬ』『それならばよう御ざる』」
③ 然るべきである。賛成である。
※竹取(9C末‐10C初)「そのおはすらん人々に申し給へと言ふ。よき事なりと承けつ」
④ (「…がよい」「…ばよい」などの形で) それが適当であると判断する意、また、それを勧める意などを表わす。
※坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉一「そんな大病なら、もう少し大人(おとな)しくすればよかった」
[六] よくないことをわざと反対にいう。とんでもない。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「この女、よき盗人なり」
[七] (補助的な用法)
① 動詞の連用形に付いて、しやすい、たやすい、簡単であるなどの意を表わす。
※万葉(8C後)六・一〇五九「山高み 川の瀬清み 住み吉(よし)と 人は言へども あり吉(よし)と 吾れは思へど」
※松翁道話(1814‐46)五「仕よいことをせずに、ただ仕にくいことして苦しむ」
② 動詞の連用形に助詞「て」を添えた形について、そうするのが適当である意を表わす。
※玉塵抄(1563)一六「礼楽をしてえびすにみせられてよからうと云たぞ」
※彼の歩んだ道(1965)〈末川博〉四「彼が生来持ち合わせていないものがあることをはっきり教えてくれたといってよい鯖瀬は〈略〉哲学を専攻した」
[語誌](1)上代の文献にはヨシの古形、エシが見られる。→善(え)い
(2)中古には「よし・よろし・わろし(わるし)・あし」と四段階の評価があり、ヨシはヨロシよりも高い評価を表わしたといわれる。「日葡辞書」にヨシは「良い、非常によい」、ヨロシイは「良い、適当な(もの)」などと説明されており、中世も同様の傾向にあったと考えられる。
(3)連用形「よう」「よく」は副詞に転成することもある。→ようよく
よ‐が・る
〘自ラ四〙
よ‐げ
〘形動〙
よ‐さ
〘名〙

よ・し【良・善・好・吉・佳・宜】

〘形ク〙 ⇒よい(良)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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