デジタル大辞泉
「紛」の意味・読み・例文・類語
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まぎらわし・い まぎらはしい【紛】
〘形口〙 まぎらは
し 〘形シク〙 (古くは「まきらはし」)
※万葉(8C後)一四・三四〇七「かみつけのまぐはしまとに朝日さし麻伎良波之(マキラハシ)もなありつつ見れば」
② ともすると雑事にかまけ、大事なことを忘れがちである。また、
多忙で大事なことをおろそかにしがちである。
※源氏(1001‐14頃)橋姫「おのづからうちたゆみて、まぎらはしくてなむ過ぐし来るを」
③ (とりまぎれるほどに)めまぐるしく多忙である。
※
たまきはる(1219)「しげきをりは
二三日、まぎらはしきほどなどは四五日になる時もありき」
④ 物思わしさ、
気苦労などが、他のことにとりまぎれて慰むようである。気がまぎれるようである。
※
狭衣物語(1069‐77頃か)四「一品の宮ばかりには参り給て、まぎらはしき歩きもえし給はざりけり」
⑤ 区別がはっきりしない。似ていてまぎれやすい。
※
浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)五「
様子をきいて紛
(マギラ)はしき者ならば早速にたたきふせ」
※
青年(1910‐11)〈
森鴎外〉二三「どうしてもこの
感じは
嫉妬にまぎらはしいやうである」
まぎらわし‐げ
〘形動〙
まぎらわし‐さ
〘名〙
まぎれ【紛】
① まぎれること。まじり合うこと。入りまじって見わけにくいこと。判別がつかなくなること。
※
古今(905‐914)
離別・三九四「山かぜにさくらふきまきみだれなん花のまぎれに君とまるべく〈
遍昭〉」
② ある事につけこんで何かを行ないうる機会、また事の勢いにまかせて何かを行なうような状態。
※落窪(10C後)二「おほとなぶらまゐれなどいふまぎれに、は
ひよりて」
③ 心が他のことにひかれること。
※源氏(1001‐14頃)明石「昔物語などせさせて聞き給ふに、少しつれづれのまぎれなり」
④ まちがい。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「ふとしもあらはならぬまぎれ、ありぬべし」
⑤ 多忙。とりこみごと。混乱。とりまぎれ。
※竹むきが記(1349)上「御作法御進退など、事多かる御事にて、御習礼など、かねてよりいみじき御まぎれにぞ侍し」
⑥
囲碁や将棋で、局面を複雑にさせる打ち方、またはさし方。
[2] 〘語素〙
① (心情を表わす形容詞語幹、動詞連用形に付いて) 不快な心情の高まりを転嫁してまぎらすことを表わす。「に」を伴って副詞的に、「…のあまり、
前後のわきまえもなく」などの意に用いることが多い。「苦しまぎれ」「腹立ちまぎれ」など。
② (
体言に付いて) まぎれて、見わけにくいことを表わす。
※玉塵抄(1563)一「といての名の姓がどれも王なり。王まぎれがしたぞ。どちか本やらう」
まぎ・れる【紛】
〘自ラ下一〙 まぎ・る 〘自ラ下二〙
① 入りまじる。多くの中に混入してわからなくなる。
※竹取(9C末‐10C初)「ある時には、
来し方行末も知らず、海にまぎれんとしき」
② 似かよっていて見分けにくいさまになる。
※
蜻蛉(974頃)下「紙の
いろにさへまぎれて、さらにえみたまへず」
③ かくれる。身を隠す。また、まじって判別がつけにくい
情況に乗じる。
※蜻蛉(974頃)下「おくれずおひきければ、家をみせじとにやあらん、とくまぎれいきにけるを」
④
人目を忍ぶ。気づかれないようにする。目立たないようにこっそりと行く。
※栄花(1028‐92頃)峰の月「け近ければまきれ渡りつつ見奉らせ給ふ」
⑤ 混雑する。あれこれと忙しく繁雑になる。さしさわりがある。ごたごたする。
※源氏(1001‐14頃)椎本「
相撲など、公ごとども、まぎれ侍る比過ぎて、候はむ」
⑥
筋道がたたなくなる。混乱する。〔
日葡辞書(1603‐04)〕
⑦ 他の事に心が散って本来の事がうやむやになる。また、他に心がひかれて、不快や悲しみを忘れる。
※蜻蛉(974頃)上「まぎるることなくて、夜は念仏声ききはじむるより、やがて泣きのみあかさる」
まぎらわ・す まぎらはす【紛】
〘他サ五(四)〙
① 識別しにくくする。うやむやにする。ごまかす。
※書陵部本恵慶集(985‐987頃)「かすみたつみねやいづれぞたづねみんはなのとほめをまぎらはすかな」
② 目立たないようにする。かくす。
※源氏(1001‐14頃)松風「いはけなげなる
下つ方も、まぎらはさむなど思ふを」
③ 心を他のことに移す。気をそらすようにする。まぎらす。
※源氏(1001‐14頃)若紫「とかう、まぎらはさせ給ひて」
まぐれ【紛】
〘名〙 (動詞「まぐれる(紛)」の連用形の名詞化)
① まぎれること。まぎれ。
※俳諧・うたたね(1694)「炉の梅花香に鶯のまぐれ鳴」
② 偶然そうなること。思いがけず、ある結果になること。まぐれあたり。
※転生(1924)〈志賀直哉〉六「たまにはまぐれにもいい方を選びさうなものだが」
まぎら・す【紛】
〘他サ五(四)〙 話題や動作などを他に移してそのことがわからなくなるようにごまかす。気持を他に向けてその事にふれないように努める。また、そのようにして気持を晴らす。まぎらかす。〔観智院本名義抄(1241)〕
※浄瑠璃・生玉心中(1715か)上「語れど二人は余りの事まぎらす耳の余所の町」
※虚実(1968‐69)〈中村光夫〉小さなキャベツ「僕等はこんな陰口をたたいて、嫉妬心をまぎらしました」
まぎらわし まぎらはし【紛】
〘名〙 (動詞「まぎらわす(紛)」の連用形の名詞化) まぎれるようにすること。まぎらかし。
※源氏(1001‐14頃)橋姫「世ばなれて眺めさせ給ふらん、御心のまぎらはしには、さしも驚かせ給ふばかり、きこえ馴れ侍らば」
まがよ・う まがよふ【紛】
〘自ハ四〙 ものにまぎれた状態でいる。はっきりしないさまである。
※山家集(12C後)上「籬(ませ)なくは何をしるしに思はまし月にまがよふ白菊の花」
まがわし まがはし【紛】
〘形シク〙 (動詞「まがう(紛)」の形容詞化) まぎれやすい。まちがいやすい。まぎらわしい。
※俳諧・猿蓑(1691)四「まがはしや花吸ふ蜂の往還り〈園風〉」
まがわ・す まがはす【紛】
〘他サ四〙 まがうようにする。まぎらわしくする。まどわせる。まぎらわせる。
※貫之集(945頃)三「おく霜のおきまがはせる菊の花いづれをもとの色とかは見む」
まぐ・れる【紛】
〘自ラ下一〙 まぐ・る 〘自ラ下二〙 道に迷う。さまよう。
※歌舞伎・廓曠着紅葉裲襠(子持高尾)(1873)序幕「旅烏がまぐれて来たか」
まぎら【紛】
〘名〙 まぎらわすこと。ごまかし。
※浄瑠璃・心中重井筒(1707)中「重き心を軽口に、蒲団被って行く振りも、涙くろめしまぎらなり」
まぎろし【紛】
〘形シク〙 まぎらわしい。怪しい。疑わしい。
※雑俳・絹はかま(1701)「まぎろしや・精進の有る給仕人」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報