内科学 第10版 「インクレチン薬」の解説
インクレチン薬(インクレチンとエネルギー代謝)
インクレチン薬によって,GLP-1ならびにGIPシグナルへの効果が異なる(表12-16-1).GLP-1受容体作動薬はGLP-1に類似したアミノ酸配列を有するペプチドで,薬理的な高濃度でGLP-1受容体を刺激する.DPP Ⅳ(dipeptidyl-peptidase Ⅳ)阻害薬は,GLP-1ならびにGIPの分解を抑制する小分子で,生理的な濃度でGLP-1ならびにGIP受容体を刺激する.さらに,αグルコシダーゼ阻害薬は炭水化物吸収の場を上部小腸から中〜下部小腸に移動させることで,GIP分泌を抑制しGLP-1分泌を促進する(Naritaら,2009).GLP-1とGIPのエネルギー代謝に及ぼす影響がまったく逆であるため,GLP-1とGIPシグナルの比によって,体重への効果が規定される.
a.GLP-1受容体作動薬
スルホニル尿素(SU)薬とGLP-1受容体作動薬はいずれも膵β細胞からのインスリン分泌を促進する.これらの薬剤の2型糖尿病への効果を比較した臨床試験の成績をみると(Seinoら,2010),GLP-1受容体作動薬投与群で血糖値やHbA1c値がSU薬投与群より改善しただけではない.体重がSU薬投与群では0.99 kg増加していたのに対して,GLP-1受容体作動薬投与群では0.92 kg低下し,その差は顕著である.SU薬の中枢神経系への作用は食欲促進であり,エネルギー蓄積を促進する.このようなSU薬とGLP-1受容体作動薬の膵外作用の違いによって,体重への効果に違いが出現しているものと想定されている.
b.DPP Ⅳ阻害薬
DPP Ⅳ阻害薬は,GLP-1のみならずGIPのシグナルも活性化するが,DPP Ⅳ阻害薬によって得られるGLP-1シグナル増強は食欲抑制などを発揮するには不十分である.したがって,食事療法が遵守されているとDPP Ⅳ阻害薬投与で体重には大きな影響がないが,エネルギー制限が遵守されないと体重が増加する可能性がある.
c.αグルコシダーゼ阻害薬
αグルコシダーゼ阻害薬投与でGIPシグナルが減弱し,GLP-1シグナルが増加するため,αグルコシダーゼ阻害薬を投与された2型糖尿病では体重が減少する.[山田祐一郎]
■文献
Miyawaki K, Yamada Y, et al: Inhibition of gastric inhibitory polypeptide signaling prevents obesity. Nat Med, 8: 738-742,2002.
Narita T, Katsuura Y, et al: Miglitol induces prolonged and enhanced glucagon-like peptide-1 and reduced gastric inhibitory polypeptide responses after ingestion of a mixed meal in Japanese type 2 diabetic patients. Diabet Med, 26: 187-188,2009.
Seino Y, Rasmussen MF, et al: Efficacy and safety of the once-daily human GLP-1 analogue, liraglutide, vs glibenclamide monotherapy in Japanese patients with type 2 diabetes. Curr Med Res Opin, 26: 1013-1022, 2010.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報