日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブリトラ」の意味・わかりやすい解説
ブリトラ
ぶりとら
Vtra
インド最古の聖典『リグ・ベーダ』において、英雄神インドラに退治される悪竜の名。水をせき止めるブリトラを殺すインドラの武勲は、『リグ・ベーダ』中で繰り返したたえられている。このためインドラは「ブリトラを殺す者」ブリトラハンVtrahanとよばれている。インドラの悪竜退治は1回きりの「歴史的な」できごとではなく、周期的に繰り返される。この神話の根底をなすものは、周期的に繰り返される天地創造神話であるとされ、ブリトラはあらわで形なきもの、すなわち天地創造以前のカオスを象徴するという(エリアーデ説)。古代イランにもVtrahanに対応するウルスラグナVərathraghnaという勝利の神が存するから、ブリトラという悪竜の名は、逆にこの神名から導き出されたものとも考えられる。
[上村勝彦]