日本大百科全書(ニッポニカ) 「天地創造神話」の意味・わかりやすい解説
天地創造神話
てんちそうぞうしんわ
天地、宇宙がいかにしてできあがったかを物語る神話。宇宙開闢(かいびゃく)神話ともいい、ヨーロッパ、アジアの古代世界にも、また現存の諸民族の伝承にもさまざまな形で物語られる。これらを大別すると、一般に次の四つの話型に分けられる。(1)海中からの宇宙、大地の創造 至上神、創造神が主役となる型で、『旧約聖書』創世記のヤーウェ神による世界創造、エジプトの太陽神アトンの原海洋ヌンよりの誕生とそれによる国土創造、日本の伊弉諾・伊弉冉尊(いざなぎいざなみのみこと)によるオノゴロ島創造などがある。北アメリカのインディアンでは、ワタリガラスやコヨーテなどの動物がこの役をつとめることもある。神統譜が形成されているところでは、至上神が部下の神や動物を遣わして海中から大地をつくりだしている話もある。(2)進化、形成、系譜型 ギリシア、ポリネシアなどにみられる型で、混沌(こんとん)からしだいに現在みられるような天地に形成されていった過程を、それを表す神々の出現により語るというもの。ギリシア神話では、混沌の状態カオスから大地ガイアと地下の世界タルタロス、愛エロスが生まれ、ガイアは天空ウラノスを生み、さらにそのウラノスと母子婚をして海洋神オケアノスなどの多くの神々を生んだ。またポリネシアのニュージーランドの神話では、原初、暗黒の混沌ポーから、運動や音、光、熱と水、物質と形相が生まれ、最後に天と地が生まれて天ランギと地パパとが結婚する。なお、この型は次の(3)の型と結び付くことが多い。(3)天地分離型 原古の混沌から生じた天地の間が狭すぎるため、ある神や巨人がこれを押し広げたというもので、中国の盤古(ばんこ)神話や、タネ神が天父と地母を引き離したというニュージーランドの神話などがこれに属する。(4)死体化生(けしょう)型 北欧の『エッダ』やインドの『ベーダ』にみえる、混沌の初めにいた絶大な巨人が死んだのち、その死体の各部から天地万物が生じたというもの。盤古神話はこれにも属する。
これらの話型を含んだ説話は伝播(でんぱ)によるものなのか、あるいは独立発生なのか、まだわかっていない。しかしいずれにせよこれらの創造神話は(四つの話型に属するものも属さないものも含めて)、オーストラリアやニューギニア、メラネシア、アンダマン諸島など、もっとも原始的な環境にある民族においてはあまり語られていない。この神話はやや高度な文化の産物であろう。また創造神話は、バビロニアの『エヌマエリッシュ』や、パウニー・インディアンの「ハコ祭」の祭歌のように、特定の祭りのときに儀礼的な諷誦(ふうしょう)を行う型のものが少なくない。朝鮮の済州(さいしゅう)島の巫(かんなぎ)祭にもかならず創造神話の口誦があり、また病気治療や出産の祈りの際に口誦が行われることもある。
[松前 健]
『吉田敦彦著『天地創造99の謎』(1976・産報出版)』▽『エリアーデ著、堀一郎訳『永遠回帰の神話』(1963・未来社)』