宗教の教えや思想の記されている書。教典、経典、聖書ともいう。
未開宗教や無文字時代の宗教においては、意識的に体系だてられた教義は存在せず、かわって神話が語られ、口承で伝達された。文字の発生によって記録が可能になると、神話のなかには、一定の意図をもって集大成され、聖典とみなされるものが生じる。古代インド教の『ベーダ』Veda、ユダヤ教の『トーラー』Tôrāh(律法)のほか、神道(しんとう)の『古事記』『日本書紀』もそれにあたる。
[鈴木範久]
しかし、宗教教団において、聖典が比較的重要視されるのは、ある創唱者によって始められた、いわゆる創唱宗教の場合である。この種の聖典には、仏教経典、キリスト教の聖書、ゾロアスター教の『アベスタ』Avesta、イスラム教の『コーラン』Koranがある。日本の天理教や大本(おおもと)教の『お筆先』も聖典である。これらのなかでも、とくにキリスト教やイスラム教では、各聖典はそのまま「神のことば」とされ、絶対的な位置を占めてきた。聖典は、このように狭い意味では、創唱者に啓示された神のことばをさすが、広い意味では、さらにこれを説明したり、注釈を加えたものまで含むことがある。
[鈴木範久]
一般に聖典の成立には、創唱者の没後、その教説が異なっていろいろに伝えられて、教団が分裂の危機に直面する状態があずかり、創唱者の教説を統一して、教団の統合を図る目的がみいだされる。仏教の「経」すなわち「スートラ」sūtraが物差しに使う紐(ひも)、キリスト教の「正典」すなわち「カノン」kanonが同じく物差しを意味することばから出ていることからわかるように、聖典は、しばしば、他の文書とは異なり、規準となる聖なる「正典」とされる。「正典」から外された文書であるが、それに準じた扱いを受けるものは「外典」とされ、キリスト教では「アポクリファ」とよばれる。聖典は、信者の宗教的・倫理的生活のよるべき基準になる反面、ときに、その内容よりも聖典自体が神聖視され、それを写すことに功徳を認める写経や、呪文(じゅもん)化した読誦(どくじゅ)がなされたりする。
近代に入り、聖典の文献学的な研究が進むにしたがって、聖典には成立時の社会的背景や編集者の信仰が著しく反映していることが明らかになり、それが一字一句を誤りない神や仏陀(ぶっだ)のことばとする見方はあまりとられなくなった。
[鈴木範久]
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