化学辞典 第2版 「二酸素錯体」の解説
二酸素錯体
ニサンソサクタイ
dioxygen complex, oxygen complex
酸素錯体ともいう.酸素分子が直接金属原子に結合または配位した錯体のこと.おもに二酸素と金属原子が1:1である錯体をいう.二つの型があり,酸素分子がサイドオン型およびエンドオン型に配位する.サイドオン型の錯体として,バスカ錯体[IrCl(CO){P(C6H5)3}2]と酸素が反応してできる[Ir(O2)Cl(CO){P(C6H5)3}2]がある.この型の錯体は,Sc,Znを除く多くの遷移金属錯体で合成されている.配位した酸素の赤外吸収スペクトルの伸縮振動は800~900 cm-1 で,O-Oの結合距離がやや伸びた形となっている場合が多く,過酸化物錯体 O22- が配位した錯体とみなされる.配位している酸素分子は,しばしば二酸素と直接反応しないCO,CO2,CS2,SO2などを酸化し,それらを取り込んだ錯体をつくる.
また,エンドオン型としては,[trans-Co(salen)2(O2)py]などがあり,O2- として配位している.M-O-Oは曲がった構造をとっており,Fe,Co,Rh以外の遷移金属では,その例がほとんどない.一般に,サイドオン,エンドオン型を問わず,多くの錯体で二酸素の結合は可逆的である.二酸素錯体は酸化反応の中間体モデルとして,またヘモグロビン酸素錯体のモデルとして研究されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報