化学辞典 第2版 「バスカ錯体」の解説
バスカ錯体
バスカサクタイ
Vaska's complex
trans-[IrCl(CO){P(C6H5)3}2]の構造をした平面四配位錯体で,通常,P(C6H5)3がほかの第三級ホスフィンに置き換わった同族体も含めてバスカ錯体と総称する.1961年にL. Vaskaによって合成された.(NH4)2[IrCl6]とP(C6H5)3とをジエチレングリコール中で加熱して得られるが,そのほかに塩化イリジウムとP(C6H5)3とをジメチルホルムアミド中で加熱して得る方法もある.輝黄色の結晶で,固体では空気に対して安定であるが,溶液状態では空気中の酸素と反応する.ベンゼン,クロロホルムに可溶,エタノールに不溶.H2,O2,SO2,CO,HCl,HgX2,Hg2X2(X = ハロゲニド,アセタート),CH3I,ヨウ化アリル,塩化ベンジル,ヨード酢酸メチル,塩化アセチル,塩化スルホニル,トリクロロシラン,オレフィン,置換アセチレンなどとの付加体をつくる([別用語参照]酸化的付加反応).また,オレフィンの水素化の触媒となり,有機アジドとの反応で,二窒素錯体[IrCl(N2){P(C6H5)3}2]を与えるなど,多彩な反応性をもっている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報