モデル(読み)もでる(英語表記)Lisette Model

日本大百科全書(ニッポニカ) 「モデル」の意味・わかりやすい解説

モデル(Lisette Model)
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Lisette Model
(1906―1983)

オーストリアの写真家。旧名エリゼ・フェリック・アメリー・セイバートElise Felic Amelie Seybert。ウィーンの富裕な家に生まれ、父はイタリア系で医師、母はフランス系で、幼いころから家庭教師について音楽や語学を学ぶ。著名な作曲家アルノルト・シェーンベルクに師事し、父の死後パリに移り音楽を続ける。1937年ロシア人の画家エブサ・モデルEvsa Modelと結婚、そのころから独学で写真を撮りはじめる。翌年ニューヨークに移る。40年に初めて『キューCue誌に写真が掲載され、続く『P. M.』誌の「フランスはなぜ衰退したか」というピクチャー・ストーリーでセンセーションを巻き起こした。その後、モデルの写真は『ハーパーズ・バザー』Harper's Bazaar誌のアート・ディレクター、アレクセイ・ブロドビッチAlexey Brodovitch(1898―1971)やカーメル・ショーCarmel Show等に高く評価され、『ルックLookや『ザ・レディーズ・ホーム・ジャーナル』The Ladies Home Jounal、『サタデー・イブニング・ポスト』The Saturday Evening Post、『ポピュラー・フォトグラフィPopular Photography、『コスモポリタンCosmopolitanなど多くの雑誌が取りあげることになる。また、41年には自らもメンバーである「フォト・リーグ」(1930年設立の「フィルム・アンド・フォト・リーグ」が分裂して35年に「フォト・リーグ」が開設。労働者の視点に立った作品を制作・称揚する写真家の団体)で個展が催され、シカゴ美術館サンフランシスコの美術館プレース・オブ・ザ・レジョン・オブ・オナーなどでも行われた。MoMA(ニューヨーク近代美術館)写真部門ディレクターをつとめたエドワード・スタイケンはモデルを「この時代の最も重要な写真家の一人である」と絶賛し、MoMAでもたびたび作品が取りあげられ、個展も開催されている。

 ローライフレックス・カメラ(ドイツ、ローライ社の二眼レフカメラ)を用い、被写体の正面から低いアングルでクローズ・アップで捉える彼女の写真は、社会の周縁で貧しさの中でも威厳に満ちて生きる人々の姿を、リアリティ溢れる描写で、時にはユーモアたっぷりに暖かい眼差しで写している。それは彼女と同じ富裕なブルジョア層の風刺に満ちた写真とは対照的である。こうした彼女の写真への姿勢は、例えばモデルから最も影響を強く受けたと思われるダイアン・アーバス等に受け継がれている。

 1951年、モデルはニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチ(学問の自由を求める研究者によって1918年にニューヨークで設立された教育機関)に招かれ教鞭をとる。そこでは長年の友人であるベレナイシ・アボットも教えていた。名物教師としてアーバスをはじめ多くの写真家を育て、教師生活は83年に彼女が亡くなるまで続いた。

[笠原美智子]

『Lisette Model, Matt MahurinLisette Model (2002, Twin Palms, Santa Fe)』『Elizabeth SussmanLisette Model (2001, Phaidon, London)』


モデル(model)
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model

一般に模写されるもの、あるいは模型をいうが、モデルという語には、実にさまざまな意味がある。小説や絵画でモデルという場合は、描かれるべき当の人物であるが、モデルケースといえば、模範とされるべき場合であり、プラモデルといえば、実物を何分の1かに縮小したプラスチック製の模型である。しかも、モデルという語には、これらの通常の意味のほかにも、学問的な意味がある。

 数学や論理学では、公理系を満足するものの集合を、その公理系のモデルという。たとえば、ブール代数の公理系は命題計算として解釈されうる。したがってブール代数の公理系は、命題によって満足されうる。それゆえ命題の集合は、ブール代数の公理系のモデルである、と考えることができる。

 これに対し、自然科学においては事情はかなり異なっている。たとえばボーアの原子モデルは、彼の原子理論のモデルであるというよりは、まずは、いまだ知られざる原子について構想された模型であった。この種のモデルは「理論モデル」とか「構成モデル」とかといわれる。これに対し、実際の対象がいちおうはわかっているが、しかしそのままでは複雑で取り扱えないとき、われわれはその対象を単純化して取り扱う。その単純化されたものは「単純化モデル」といわれる。質点、理想気体、単振動などはこれである。また、実際の対象がいちおうはわかっているが、しかしそのままでは大きすぎ、あるいは小さすぎてわかりにくいとき、われわれはその対象を縮小または拡大してみる。この縮小または拡大されたものは「相似モデル」といわれる。地球儀、球と棒でつくられた分子の模型などはこれである。相似は合同をも含むから、相似モデルは「合同モデル」をも含んでいる。ある車の特性を調べるのに、それと同じ型の別の車で調べるとすれば、それは合同モデルで調べていることになる。同じ型といっても、いまの場合は、それを構成している素材までも含めて同じ型というのであるが、これに対し、物質的には違う二つのものが変化の仕方が同じ型である場合には、その一方を他方の「同型モデル」という。ある範囲内で、水流は電流の同型モデルであり、単振子は単振動の同型モデルである。

 さらにまた、とくに単純化モデルにおける仮説もまた「モデル」といわれることがある。心理学や社会学における仮説の多くは、この意味でモデルといわれることが多い。経済予測に使われるさまざまなモデルなどは、その例である。

[黒崎 宏]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モデル」の意味・わかりやすい解説

モデル
model; modello

美術用語。絵画や彫刻そのほかの芸術表現のために使用する対象物。デッサンなどの練習用に使用する場合,作品の発想を定着させるために借りる場合,肖像などのように対象物そのものを表現する場合などのように,目的によりそれぞれ異なった意味で使用される。絵画,彫刻作品の注文が大作であるとき,その全体の構想をあらかじめ小さな作品にスケッチし,依頼者の了承を得る場合などに使用する絵画,彫刻をモデロともいう。

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