デジタル大辞泉 「モデル」の意味・読み・例文・類語
モデル(model)
2 模型。また、展示用の見本。「プラスチック
3 ある事象について、諸要素とそれら相互の関係を定式化して表したもの。「計量経済
4 美術家・写真家が制作の対象とする人や物。「ヌード
5 小説・戯曲などの題材となった実在の人や事件。「
6 「ファッションモデル」の略。
7 機械・自動車などの
[類語](1)手本・模範・規範・典型・範・鑑・亀鑑・
翻訳|model
モデルには基本的に二つの意味がある。一つは,絵画,彫刻,写真,小説などでのモデルであり,これはいわば〈原型〉としてのモデルである。人は,この意味でのモデルに基づいて,何かを作るわけである。いま一つは,プラスチックモデルで代表されるようなモデルであり,これはいわば〈模型〉としてのモデルである。この場合には,人は,何かに対してそのモデルを作るわけである。したがって第1の意味では,モデルは何かに先立ち,第2の意味では,何かがモデルに先立つことになる。そして,科学においてモデルというとき,それは第2の意味においてである。すなわち,科学におけるモデルは,模型としてのモデルである。しかし,こういっても,それにはさまざまな種類がある。
まず大きく分けると,科学におけるモデルは,〈対象モデル〉と〈モデル理論〉に分けられる。そして一般に科学においてモデルというとき,それは対象モデルを意味することが多い。対象モデルはさらに〈単純化モデル〉〈構成モデル〉〈近似モデル〉〈同型モデル〉〈相似モデル〉などに分けられる。単振動,完全流体などは単純化モデルである。このモデルは,実際の対象が一応はわかっているが,そのままでは複雑でとり扱えないとき,あるいはそのままでとり扱う必要がないときなどに用いられる。これに対し,実際の対象がそもそも最初からわかっていないとき,それはかくあるであろうと理論的に想像して構成されたモデルが,構成モデルである。太陽系のモデル,原子模型などは,この種のモデルである。単純化モデルと構成モデルは,いずれも近似のモデルであるから,まとめて〈近似モデル〉といえよう。同型モデルには2種類ある。物理的な同型モデルと数学的な同型モデルである。電流を説明するのに水流をもってするとき,水流は電流の物理的な同型モデルである。なぜなら電流と水流は,ある範囲内で,同じ型のふるまいを示すから。これに対し,交流をサインカーブやコサインカーブで表すとき,それらは交流の数学的な同型モデルである。なぜならサインカーブやコサインカーブは,交流と同じ型のふるまいをし,だからこそ科学者は,実際の交流ではなくサインカーブやコサインカーブを見て,仕事をすることができるのである。相似モデルとは,巨大な,または微小な,要するに一目ではわからない対象を,一目でわかるように相似に縮小または拡大したものである。プラモデル,地図,拡大図などはこの例である。
以上のような対象モデルに対し,そのうちの近似モデルに対して立てられた理論が,モデル理論である。それは,あるべき理論に対しての近似であり,模型であって,その意味ではやはり一種のモデルである。自然科学,社会科学を問わず,近代科学における理論はみなこの種のものである。
以上のほかに,理論的な意味でモデルと称されるものがある。例えば,ブール代数の公理系は,命題の計算としても,〈ベンの図式〉が示すように,平面上の領域の計算としても,真として解釈可能である。このように,ある公理系がある種のものの集合によって真として解釈可能であるとき,その集合をその公理系のモデルという。これは,論理学や数学において用いられる論理的な意味でのモデルである。
執筆者:黒崎 宏
美術におけるモデルとは,画家,彫刻家の目の前にあって制作の拠り所となるもの,とりわけ人物で,人体の構造や動作の正確な把握がモデル使用の第1の目的であるため,裸体であることが多い。
古代ギリシアの芸術家は,競技場で運動する裸体の青年たちをモデルにしたと推定される。女性に関しては,クラシック時代後期の彫刻家プラクシテレスが初めて裸体のアフロディテ像を作ったとき,美しい遊女フリュネがモデルとなったと伝えられる。キリスト教的かつ観念的な中世美術においては,裸体はもちろん着衣でも,モデルに拠る制作は行われなかった。ルネサンスに再びモデルが使用されるようになったことは,完成作の写実性のみならず,特にイタリアに多いポーズするモデルの写生素描に明らかであるが,女性像のための習作でもモデルは男性である。工房に働く多数の若い徒弟を写生するのが簡便で風紀上も問題が少なかったためばかりでなく,男性の肉体の方が女性に比べより完全であるという理念的根拠もその背景にあった。16世紀後半のイタリアにおけるアカデミーの発生に伴って,男性の職業的モデルが登場し,古代彫刻の石膏模刻の写生素描を経てモデルの写生に進むという美術教育課程もここに定まり,この伝統が現代まで継承される。女性モデルは,公式には1759年にフランスの王立絵画・彫刻アカデミーにおいて着衣のそれが初めて認められた。16世紀以来芸術家が個人的に裸婦を写生することはあったにしても,美術学校に裸体女性モデルが導入されるのは19世紀後半のことである。伝統的にはモデルの写生は完成作のための習作であるが,19世紀以降〈人物画〉として写生それ自身を目的に描かれるようにもなった。特定の個人の姿を写した肖像についても描写された対象をモデルと呼ぶが,英語ではこれは普通〈シッターsitter〉(肖像を制作してもらうため座る人)という。なお,彫刻,建築のための雛型もモデルと呼ばれ,イタリア語のモデロmodelloは絵画の構図習作も含む。
→素描
執筆者:高橋 裕子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
オーストリアの写真家。旧名エリゼ・フェリック・アメリー・セイバートElise Felic Amelie Seybert。ウィーンの富裕な家に生まれ、父はイタリア系で医師、母はフランス系で、幼いころから家庭教師について音楽や語学を学ぶ。著名な作曲家アルノルト・シェーンベルクに師事し、父の死後パリに移り音楽を続ける。1937年ロシア人の画家エブサ・モデルEvsa Modelと結婚、そのころから独学で写真を撮りはじめる。翌年ニューヨークに移る。40年に初めて『キュー』Cue誌に写真が掲載され、続く『P. M.』誌の「フランスはなぜ衰退したか」というピクチャー・ストーリーでセンセーションを巻き起こした。その後、モデルの写真は『ハーパーズ・バザー』Harper's Bazaar誌のアート・ディレクター、アレクセイ・ブロドビッチAlexey Brodovitch(1898―1971)やカーメル・ショーCarmel Show等に高く評価され、『ルック』Lookや『ザ・レディーズ・ホーム・ジャーナル』The Ladies Home Jounal、『サタデー・イブニング・ポスト』The Saturday Evening Post、『ポピュラー・フォトグラフィ』Popular Photography、『コスモポリタン』Cosmopolitanなど多くの雑誌が取りあげることになる。また、41年には自らもメンバーである「フォト・リーグ」(1930年設立の「フィルム・アンド・フォト・リーグ」が分裂して35年に「フォト・リーグ」が開設。労働者の視点に立った作品を制作・称揚する写真家の団体)で個展が催され、シカゴ美術館やサンフランシスコの美術館プレース・オブ・ザ・レジョン・オブ・オナーなどでも行われた。MoMA(ニューヨーク近代美術館)写真部門ディレクターをつとめたエドワード・スタイケンはモデルを「この時代の最も重要な写真家の一人である」と絶賛し、MoMAでもたびたび作品が取りあげられ、個展も開催されている。
ローライフレックス・カメラ(ドイツ、ローライ社の二眼レフカメラ)を用い、被写体の正面から低いアングルでクローズ・アップで捉える彼女の写真は、社会の周縁で貧しさの中でも威厳に満ちて生きる人々の姿を、リアリティ溢れる描写で、時にはユーモアたっぷりに暖かい眼差しで写している。それは彼女と同じ富裕なブルジョア層の風刺に満ちた写真とは対照的である。こうした彼女の写真への姿勢は、例えばモデルから最も影響を強く受けたと思われるダイアン・アーバス等に受け継がれている。
1951年、モデルはニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチ(学問の自由を求める研究者によって1918年にニューヨークで設立された教育機関)に招かれ教鞭をとる。そこでは長年の友人であるベレナイシ・アボットも教えていた。名物教師としてアーバスをはじめ多くの写真家を育て、教師生活は83年に彼女が亡くなるまで続いた。
[笠原美智子]
『Lisette Model, Matt MahurinLisette Model (2002, Twin Palms, Santa Fe)』▽『Elizabeth SussmanLisette Model (2001, Phaidon, London)』
一般に模写されるもの、あるいは模型をいうが、モデルという語には、実にさまざまな意味がある。小説や絵画でモデルという場合は、描かれるべき当の人物であるが、モデルケースといえば、模範とされるべき場合であり、プラモデルといえば、実物を何分の1かに縮小したプラスチック製の模型である。しかも、モデルという語には、これらの通常の意味のほかにも、学問的な意味がある。
数学や論理学では、公理系を満足するものの集合を、その公理系のモデルという。たとえば、ブール代数の公理系は命題計算として解釈されうる。したがってブール代数の公理系は、命題によって満足されうる。それゆえ命題の集合は、ブール代数の公理系のモデルである、と考えることができる。
これに対し、自然科学においては事情はかなり異なっている。たとえばボーアの原子モデルは、彼の原子理論のモデルであるというよりは、まずは、いまだ知られざる原子について構想された模型であった。この種のモデルは「理論モデル」とか「構成モデル」とかといわれる。これに対し、実際の対象がいちおうはわかっているが、しかしそのままでは複雑で取り扱えないとき、われわれはその対象を単純化して取り扱う。その単純化されたものは「単純化モデル」といわれる。質点、理想気体、単振動などはこれである。また、実際の対象がいちおうはわかっているが、しかしそのままでは大きすぎ、あるいは小さすぎてわかりにくいとき、われわれはその対象を縮小または拡大してみる。この縮小または拡大されたものは「相似モデル」といわれる。地球儀、球と棒でつくられた分子の模型などはこれである。相似は合同をも含むから、相似モデルは「合同モデル」をも含んでいる。ある車の特性を調べるのに、それと同じ型の別の車で調べるとすれば、それは合同モデルで調べていることになる。同じ型といっても、いまの場合は、それを構成している素材までも含めて同じ型というのであるが、これに対し、物質的には違う二つのものが変化の仕方が同じ型である場合には、その一方を他方の「同型モデル」という。ある範囲内で、水流は電流の同型モデルであり、単振子は単振動の同型モデルである。
さらにまた、とくに単純化モデルにおける仮説もまた「モデル」といわれることがある。心理学や社会学における仮説の多くは、この意味でモデルといわれることが多い。経済予測に使われるさまざまなモデルなどは、その例である。
[黒崎 宏]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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