日本大百科全書(ニッポニカ) 「四声八病説」の意味・わかりやすい解説
四声八病説
しせいはちびょうせつ
中国、南朝梁(りょう)代の沈約(しんやく)が唱えた詩の音律上の法則。「しせいはっぺいせつ」ともいう。中国語に平上去入(ひょうじょうきょにゅう)の四声調があることは、従来経験的に知られていたが、斉(せい)、梁のころ沈約、周顒(ぎょう)らによってはっきりと論ぜられるに至り、これにより詩の一句のなかの調和をとる方法が意識的に考え出された。沈約は八病説をたてて、作詩上避けるべき点を指摘した。八病とは、平頭(へいとう)、上尾(じょうび)、蜂腰(ほうよう)、鶴膝(かくしつ)、大韻(だいいん)、小韻(しょういん)、旁紐(ぼうちゅう)、正紐(せいちゅう)である。第一句と第二句の冒頭が平声(ひょうしょう)(平頭)、1句5字のうち2字目と5字目が同じ声(蜂腰)になるなどの、五言(ごごん)の句について詩律のうえで重要な部分の同声調の重複を避けたものである。これはかならずしもすべて実践されたわけではないが、詩はこれからますます洗練の度を加えて、唐代に入って近体詩の誕生をみるに至った。わが国の僧空海の『文鏡秘府論(ぶんきょうひふろん)』にもこの説が伝えられている。
[石川忠久]