改訂新版 世界大百科事典 「墨汁腺」の意味・わかりやすい解説
墨汁腺 (ぼくじゅうせん)
ink gland
軟体動物頭足類特有の器官で,直腸上の肛門のすぐ背側にある墨汁囊 ink sac中にあって墨汁ink(いわゆるイカの墨)を分泌する腺。墨汁囊はスポイト状で,輸管(墨汁管)には開口近くに括約筋が二つあって墨汁の排出を制御できる。墨汁腺ないしは墨汁囊は二鰓(にさい)類Coleoideaに特有のものと考えられ化石にもあらわれる。オウムガイ類や他の頭足類にはみられない。また,発生初期からあらわれ,孵化(ふか)幼生(頭足類の場合一般の“幼生”とは異なるが)はすでに墨汁を吐く性質をもっている。墨汁はタコ類では煙幕の用をなすが,イカ類ではいくぶん粘稠(ねんちゆう)性があって,吐出する海水中にかたまってとどまるので捕食者に目標をとりちがえさせるおとり的効果がある。一部の種,とくに深海性のタコ類などは墨汁腺を欠く。また,墨汁腺はごく一部の魚類(スミダラなど)にも見られる。
執筆者:奥谷 喬司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報