煙幕(読み)エンマク

デジタル大辞泉 「煙幕」の意味・読み・例文・類語

えん‐まく【煙幕】

戦線で、敵の視界を遮ってその攻撃を困難にしたり、味方所在行動などを隠したりするための人工的な煙。
[類語]けむりけぶり火煙白煙黒煙炊煙・朝煙・夕煙紫煙香煙硝煙砲煙噴煙排煙油煙煤煙狼煙のろしすすくゆらす煙い煙たいむせっぽい

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精選版 日本国語大辞典 「煙幕」の意味・読み・例文・類語

えん‐まく【煙幕】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 戦線などで、敵の視界をさえぎって攻撃を困難にしたり、味方の行動を隠したりするために、空中や地上に拡散させる人工の煙。
    1. [初出の実例]「敵の機関銃の直前に一時煙幕を構成し」(出典:歩兵操典(1928)第二七五)
  3. 真意や行動をかくすための言動。

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改訂新版 世界大百科事典 「煙幕」の意味・わかりやすい解説

煙幕 (えんまく)
smoke screen

戦場で敵の視察を制限して敵の行動を妨害し,みかたの行動を有利にするために人工的に展張する煙。現在多用されている発煙器資材としては,発煙油を高温で煙霧化し長時間連続して煙を発生させる発煙機,六塩化エタン,黄リン四塩化チタンなどを空中に散布して比較的小規模な煙幕を構成する発煙弾発煙筒がある。煙幕は使用目的と構成要領から次の三つに分類される。一つは,みかたの部隊や施設などを空地の敵に対して隠ぺいするため,これらの地域を覆うように構成する地域煙幕。次は,主として地上の敵に対してみかたの行動を隠ぺいするため中間にカーテン状に構成する遮断煙幕。もう一つは,敵の地上からの監視観測および行動を妨害するため敵を包むように構成する目つぶし煙幕である。煙幕の歴史は古く,18世紀初頭,北方戦争でカール12世が要塞攻撃,渡河作戦で湿ったわらを燃やしたのが最初といわれる。人工の発煙器資材が本格的に用いられたのは第1次世界大戦からである。現在まで使用されてきた煙は可視光線だけを遮断するが,最近は対戦車ミサイルや誘導砲爆弾のような精密誘導兵器が出現し,目標発見や誘導に可視光線のみならず赤外線,レーザー光線,電磁波なども用いられるようになったので,これらの波長域まで遮断できる煙が必要となり,各国で研究が進められている。民間においてはクワや野菜などの農作物の霜害を防止するために煙幕が利用されている。この場合,軍用のものと同等の発煙器を使用している所もあるが,古タイヤなどを燃やしている所もある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「煙幕」の意味・わかりやすい解説

煙幕
えんまく

戦場で敵の視界を遮って敵の攻撃を困難にし、味方の行動を敵の目から隠して攻撃利点を得、あるいは退避を容易にするために発射、拡散させる人工煙。煙幕の張り方には、砲弾・手榴弾(しゅりゅうだん)に発煙剤を詰めて発射する方法、発煙筒・発煙缶を噴出させる方法や、戦車・自動車により地上に、航空機により空中に、艦船により海上に張るなど種々の方法がある。発煙剤として黄リン、無水硫酸、四塩化チタン、四塩化スズ、発煙硫酸、塩酸アンモニウムなどを使用するが、これを薬煙幕という。形は固体、液体、泥状など。色は白色が普通。また海上では、艦船が重油専焼缶で重油を不完全燃焼させ高速で黒色の煤煙(ばいえん)を展張する。これを煤煙幕という。第一次世界大戦に初めて化学兵器として登場し、砲弾や戦車による煙幕の展張は大いに効果があり、防空用にも使用されたが、航空機による観測能力の向上からしだいに局所利用にとどまり、海上戦ではレーダーの発達によりほとんど効力がなくなった。

[寺田近雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「煙幕」の意味・わかりやすい解説

煙幕
えんまく
smoke screen

軍事行動,あるいは軍事目標を敵の目から隠蔽するために,人為的に発する煙霧。 1701年にスウェーデン軍がドビナ川を渡河する際に大量の湿ったわらを燃やしたのが,煙幕の最初の大規模な使用。第1次世界大戦で化学兵器として登場。黄リン,無水硫酸,四塩化スズ,四塩化チタン,発煙硫酸などが発煙剤に使われる。海上では薬煙幕のほか,重油を不完全燃焼させる煤煙幕も使用される。精密誘導兵器 PGMやスマート弾の進歩と普及に伴い光学的誘導に対する対抗法として新しい煙幕の開発,用法が改善され,戦車にも装備されている。

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百科事典マイペディア 「煙幕」の意味・わかりやすい解説

煙幕【えんまく】

敵の視界をさえぎったり,味方の行動を隠す目的で,海上,地上や空中に展張(てんちょう)する人工煙霧(えんむ)。発煙剤は黄リン,無水硫酸,四塩化チタンなどで,隠蔽(いんぺい)作用は白色煙が最大である。発煙筒,発煙機などで展張する。近年はレーダーの発達により効果が低下したが,赤外線,レーザー光線,電磁波などにも対応できる煙の研究が進められている。
→関連項目発煙剤

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デジタル大辞泉プラス 「煙幕」の解説

煙幕

英国の作家ディック・フランシスのミステリー(1972)。原題《Smokescreen》。競馬界を舞台にしたシリーズの第11作。

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世界大百科事典(旧版)内の煙幕の言及

【煙】より

…これらの粒子は静かな空気中ではしだいに落下し,たとえば半径10μmの水滴は毎秒1.2cm落下するが,空気の流れがあると容易には落下せず,いつまでも上空に浮遊する。 煙は遮へい用の煙幕および信号として利用される。煙幕としてよく使われるのはベルゲル混合物Berger mixtureで,たとえば四塩化炭素CCl450,亜鉛末Zn25,酸化亜鉛ZnO20,ケイ藻土5の組成をもつ。…

※「煙幕」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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