戦場で敵の視察を制限して敵の行動を妨害し,みかたの行動を有利にするために人工的に展張する煙。現在多用されている発煙器資材としては,発煙油を高温で煙霧化し長時間連続して煙を発生させる発煙機,六塩化エタン,黄リン,四塩化チタンなどを空中に散布して比較的小規模な煙幕を構成する発煙弾や発煙筒がある。煙幕は使用目的と構成要領から次の三つに分類される。一つは,みかたの部隊や施設などを空地の敵に対して隠ぺいするため,これらの地域を覆うように構成する地域煙幕。次は,主として地上の敵に対してみかたの行動を隠ぺいするため中間にカーテン状に構成する遮断煙幕。もう一つは,敵の地上からの監視観測および行動を妨害するため敵を包むように構成する目つぶし煙幕である。煙幕の歴史は古く,18世紀初頭,北方戦争でカール12世が要塞攻撃,渡河作戦で湿ったわらを燃やしたのが最初といわれる。人工の発煙器資材が本格的に用いられたのは第1次世界大戦からである。現在まで使用されてきた煙は可視光線だけを遮断するが,最近は対戦車ミサイルや誘導砲爆弾のような精密誘導兵器が出現し,目標発見や誘導に可視光線のみならず赤外線,レーザー光線,電磁波なども用いられるようになったので,これらの波長域まで遮断できる煙が必要となり,各国で研究が進められている。民間においてはクワや野菜などの農作物の霜害を防止するために煙幕が利用されている。この場合,軍用のものと同等の発煙器を使用している所もあるが,古タイヤなどを燃やしている所もある。
執筆者:甘利 富重
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戦場で敵の視界を遮って敵の攻撃を困難にし、味方の行動を敵の目から隠して攻撃利点を得、あるいは退避を容易にするために発射、拡散させる人工煙。煙幕の張り方には、砲弾・手榴弾(しゅりゅうだん)に発煙剤を詰めて発射する方法、発煙筒・発煙缶を噴出させる方法や、戦車・自動車により地上に、航空機により空中に、艦船により海上に張るなど種々の方法がある。発煙剤として黄リン、無水硫酸、四塩化チタン、四塩化スズ、発煙硫酸、塩酸アンモニウムなどを使用するが、これを薬煙幕という。形は固体、液体、泥状など。色は白色が普通。また海上では、艦船が重油専焼缶で重油を不完全燃焼させ高速で黒色の煤煙(ばいえん)を展張する。これを煤煙幕という。第一次世界大戦に初めて化学兵器として登場し、砲弾や戦車による煙幕の展張は大いに効果があり、防空用にも使用されたが、航空機による観測能力の向上からしだいに局所利用にとどまり、海上戦ではレーダーの発達によりほとんど効力がなくなった。
[寺田近雄]
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…これらの粒子は静かな空気中ではしだいに落下し,たとえば半径10μmの水滴は毎秒1.2cm落下するが,空気の流れがあると容易には落下せず,いつまでも上空に浮遊する。 煙は遮へい用の煙幕および信号として利用される。煙幕としてよく使われるのはベルゲル混合物Berger mixtureで,たとえば四塩化炭素CCl450,亜鉛末Zn25,酸化亜鉛ZnO20,ケイ藻土5の組成をもつ。…
※「煙幕」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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