改訂新版 世界大百科事典 「ダスタク」の意味・わかりやすい解説
ダスタク
dastak
通関券を意味するペルシア語系のことば。インドでは1717年のムガル皇帝の勅令によって,イギリス東インド会社の輸出・入する商品がインド内陸を通過中に内陸関税を免除される特権が確立したが,そのための自由通関券がダスタクである。ところが,イギリス人の商業活動の拡大とともに,会社の輸出入品のみに使用されるはずのダスタクが,会社の社員の私的な,輸出向けでないインド日常品の取引にも乱用され,さらには,ダスタク自体が密売されるようになった。ダスタクの発行とその乱用は,イギリス人の致富の重要な源となる一方,内陸関税を重要な財源とする政府とくにベンガル太守の財政に大きな収入減をもたらし,自由通関特権のない現地商人に打撃をあたえた。この問題は,50年代に一層深刻化し,ベンガル太守と東インド会社との軍事的衝突へと発展していった。その後,東インド会社本社は,世界市場向けインド貿易の拡大の必要性からも,イギリス人私貿易に規制を加えて,さらに内陸関税撤廃政策が採用されて,この問題も収束していった。
執筆者:柳沢 悠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報