日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナヤール」の意味・わかりやすい解説
ナヤール
なやーる
Nayār
南インド、ケララ州(マラバル海岸)の領主身分であったカースト。全域的に母系大(合同)家族がみられたので著名である。同州最大のカーストの一つであるナヤールの多くは18世紀末にイギリス領となるまでは在地小領主・農園経営者身分で、小王国の軍役を負担する支配層であった。宗教的にはナンブドリ(ブラフマン=バラモン)の下位にあった。ナヤール女性はナヤール、ナンブドリのいずれかのカーストの1人と結婚式をあげ、数人の妻問いを受けられた。ナヤール男性はケララ中部ではナンブドリ以外の適当なカーストの数人の女性と関係できた。ナヤールの子供は大家族で育て、父子関係は母と結婚式をあげた男性に対して形式的に認められるだけのこともあった。近代化とともに中産階級化し、19世紀末から1930年代に至る立法により大家族はほぼ崩壊した。共有財産、年長女性家長を伴う典型的大家族はナヤールのなかでも一般的ではなく、この制度自体が領主的経営体数の増加により、領主層の一部が一般農民に転落するのを防ぎつつ、軍役を容易にする目的をもつ、中世小王国の支配機構の一部だったとみるべきであろう。
[佐々木明]