広義にはインド半島の西海岸全域,狭義にはケーララ州の海岸のみを指すが,ふつうパンジム以南のカルナータカ,ケーララ両州にまたがる約950kmの海岸をいうことが多い。西ガーツ山脈とアラビア海に挟まれた幅10~80kmの細長い海岸平野で,大型の浜堤や砂丘,ラグーンが並び,その背後に厚いラテライト性皮殻に覆われた標高150m以下の丘陵と海岸段丘が横たわる。マンガロール以南は単調な海岸線を示し,複雑な海岸線が続くパンジムやムンバイー(旧ボンベイ)付近とはおおいに異なる。西ガーツ山脈は1000~1500mの高度で,ほぼ連続的にマラバル海岸を縁どり,デカン高原への交通障壁となっているだけでなく,アラビア海から吹き込む南西モンスーンをさえぎって大量の雨をこの地に降らす。年降水量はマンガロールで3100mm,コーチンで2400mm,南端のコモリン岬で1000mm,その80%は6~9月の南西モンスーン期に集中する。雨季は逆に南方ほど長く,コモリン岬では北東モンスーンの影響もあって8~9ヵ月となる。高湿多雨の気候ゆえに樹林がよく茂り,ラグーンの岸辺や低地にココヤシ林の樹海が続き,また河谷はすみずみまで水田に利用されている。
この地方は古くから地理的位置を利用してアラビアや東南アジアと交易していた。近世以後,ヨーロッパ人との通商が活発となり,西ガーツとその南に続くニールギリ,カルダモン両丘陵に産する香料,コーヒー,茶などを輸出した。そのため外来文化の影響が強く,キリスト教徒の比率や識字率はインドのほかの地方よりかなり高いし,進取の気性にも富んでいる。住民はドラビダ系を主とし,ケーララ州ではマラヤーラム語,カルナータカ州ではカンナダ語を用いる。カリカット,コーチン,パンジムは古くからの貿易港として有名であるが,近年マンガロールその他の港湾整備も進捗している。
執筆者:藤原 健蔵
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インド半島南部の西海岸。北はゴアから南はコモリン岬まで950キロメートルにわたって続く。背後を西ガーツ山脈の急崖(きゅうがい)によって限られ、幅は最大でも60キロメートルほどしかない。内陸部にはラテライト皮殻をもつ海岸段丘が発達し、海岸部には砂丘と潟湖(せきこ)が多い。冬季に短い乾期をもつものの、南東貿易風がもたらす降水量は年2000~4000ミリメートルにも及び、高温多湿である。そのため丘陵地や砂丘におけるココナッツ類の栽培が盛んで、こしょう、カルダモンなどの特産品もある。主要都市として、パナジーをはじめ、マンガルール(マンガロール)、コジコーデ、コーチ(コーチン)、クイロン、ティルバナンタプラム(トリバンドラム)などがある。
[貞方 昇]
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