改訂新版 世界大百科事典 「バスコ」の意味・わかりやすい解説
バスコ
José Basco(Vasco) y Vargas
生没年:?-1805
18世紀後半フィリピンで画期的な経済開発を行ったスペイン総督(在任1778-87)。グラナダ出身の海軍軍人であった。スペイン植民地フィリピンの主都マニラは,ヨーロッパで起きた七年戦争の側圧をうけて1762-64年の間イギリスに占領され,スペイン政府にフィリピン統治の軍事的・経済的脆弱さを痛感させた。以後さまざまな改革が検討されたが,総督バスコが実施した経済政策は最も大きな成果を挙げた。彼は82年にタバコの強制栽培・専売制度を実施した(1881年まで継続)。これは,ルソン島北部諸州にタバコの強制栽培を命ずる一方,他の諸州ではいっさいのタバコ栽培を禁じ,政府専売店からタバコ製品を購入させるというもので,生産されたタバコはスペイン本国その他に輸出され,政庁財政を大いにうるおした。その結果,従来スペイン領メキシコからの財政援助でかろうじて維持されてきたフィリピン財政は,ようやく自立できるようになった。しかし反面,この制度はフィリピン住民に多くの経済的負担と犠牲を強いた。バスコはまた1781年に国民経済協会を設立し,タバコ以外のフィリピン農産物資源の開発を行うとともに,85年には王立フィリピン会社を創立して,スペイン本国との直接貿易の促進につとめた。しかし,これらの政策は著しい成果を挙げることができなかった。
執筆者:池端 雪浦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報