日本大百科全書(ニッポニカ) 「呪われた中庭」の意味・わかりやすい解説
呪われた中庭
のろわれたなかにわ
Prokleta avlija
セルビアの作家アンドリッチの中編小説。1954年作。ボスニアのフランシスコ会修道士の老神父ペタルの体験談の聞き役を務める青年が、神父の葬儀のあと、故人を追想しながら体験談を再現する形式をとって書かれている。事件の舞台は「中庭」とよばれるトルコのイスタンブールの拘置所。トルコ官憲によって数か月そこに拘置されたペタル神父は、同じ未決囚で物静かな貴公子風のトルコ青年チャミルを知る。青年は自分が15世紀の不運なトルコ王子ジェムであると思い込み、皇帝僭称(せんしょう)の不敬罪に問われている。無邪気な夢想家は悪魔的な拘置所長の気まぐれな尋問にもてあそばれ現実のなかに存在を失う。
[栗原成郎]
『栗原成郎訳『呪われた中庭』(1983・恒文社)』