無葛藤理論(読み)むかっとうりろん(その他表記)teoriya beskonfliktnosti

改訂新版 世界大百科事典 「無葛藤理論」の意味・わかりやすい解説

無葛藤理論 (むかっとうりろん)
teoriya beskonfliktnosti

スターリン時代末期にソ連邦で唱えられた文学方法。階級対立や敵対的矛盾が消滅したソ連社会においては,古くから劇作の基本とされてきた〈葛藤〉のための現実的基盤がない。せいぜい〈よきものと,よりよきものとの葛藤〉が存在するだけであり,ソ連の劇作はそのことを踏まえて新しい道に進まなければならないと説かれた。劇作家ビルタNikolai Evgen'evich Virta(1906-76)らによって定式化されたこの理論は,1952年に共産党機関紙《プラウダ》によって批判されたが,問題は劇作にかぎらず,この理論が,ジダーノフ批判以後,現実の否定面を描くことを恐れ,現実を美化してきたソ連文芸の全般的傾向の集中的表現であった点にあった。ババエフスキーSemyon Petrovich Babaevskii(1909-2000)の《金星勲章の騎士》2巻(1947-48)など,第2次大戦後のスターリン賞文学にこの傾向は共通していた。したがってその批判は,ソビエト作家の基本的態度にかかわるものと受けとめられ,スターリン批判以前にソ連文学の〈雪どけ〉化に道を開いた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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