葛藤(読み)かっとう(英語表記)conflict

翻訳|conflict

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

葛藤
かっとう
conflict

(1) 心理学用語。人が2つの同程度に魅力的な (あるいは同程度に嫌いな) 選択肢のなかから一つを選ばなければならない状況。このような藤は基本的には次の3つの型に分けられる。 (a) 接近・接近型 海水浴にも行きたいし登山もしたいがどちらか一つを選ばなければならない,(b) 回避・回避型 落第もしたくないし勉強もしたくないがどちらか一方を選ばなければならない,(c) 接近・回避型 ふぐは食べたいが命は惜しい,というように対象がプラスとマイナス誘発性を同時にもっており,その対象に接近するかどうかを決めなければならない。 (2) 精神分析学用語。本能的欲求 (→イド ) とそれを抑制しようとする超自我との間の対立などをさし,これから生じる不快・苦痛な感情状態を神経症発生の主要な原因と考えている。

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デジタル大辞泉の解説

かっ‐とう【葛藤】

[名](スル)葛(かずら)藤(ふじ)のこと。枝がもつれ絡むところから》
人と人が互いに譲らず対立し、いがみ合うこと。「親子の葛藤
心の中に相反する動機・欲求・感情などが存在し、そのいずれをとるか迷うこと。「義理と人情とのあいだで葛藤する」
仏語。正道を妨げる煩悩たとえ禅宗では、文字言語にとらわれた説明、意味の解きがたい語句公案、あるいは問答工夫などの意にも用いる。

つづら‐ふじ〔‐ふぢ〕【葛藤】

ツヅラフジ科の落葉性の蔓(つる)植物。山地にみられ、蔓で他に巻きつく。葉は広卵形または円形で柄が長く、互生。雌雄異株で、夏、淡緑色の花をつける。蔓はかごを編む材料となり、根や茎は漢方で漢防已(かんぼうい)といい浮腫(ふしゅ)やリウマチの薬にする。ツヅラフジ科の双子葉植物は約400種が暖帯から熱帯にかけて分布し、主に蔓性で、カミエビコウモリカズラなども含まれる。 夏》

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世界大百科事典 第2版の解説

かっとう【葛藤 conflict】

抗争ともいう。ひろくは人間関係で個人間や集団間あるいは個人と集団間に反目や意見の衝突がある場合にも用いられるが,主として個人内に対立する二つ以上の動機(欲求,衝動,意見など)が同時に同じ強さで存在し,相争っている状態をいう。個人はその結果適切な行動をなしえないことになる。レウィントポロジーおよびベクトル心理学では,葛藤を個人がおかれている心理学的場の条件に基づいて,接近と接近の葛藤,回避と回避の葛藤,接近と回避の葛藤の3種類に分類している。

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大辞林 第三版の解説

かっとう【葛藤】

( 名 ) スル
〔もつれ合う葛かずらや藤の意から〕
人と人とが譲ることなく対立すること。争い。もつれ。 「藤原氏内部の激しい-」
〘心〙 心の中に相反する欲求が同時に起こり、そのどちらを選ぶか迷うこと。コンフリクト。 「 -に苦しむ」
禅宗で、解きがたい語句・公案、また問答工夫の意。

つづらふじ【葛藤】

ツヅラフジ科のつる性落葉木本。暖地の山中に自生。茎は緑色で無毛。葉は互生し、長柄があり、卵円形で時に掌状に浅裂する。雌雄異株。夏、淡緑色の小花を円錐花序に付け、黒熟する核果を結ぶ。つるでかごなどを編み、根・茎は利尿薬やリウマチの薬とする。オオツヅラフジ。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

葛藤
かっとう
conflict

個人の内面における欲求・動機のもつれや、個人間・集団間の争いの苦悩を表現することばである。心理学では、二つ、あるいはそれ以上の共存できない欲求(動機)が個人の内面に同時に存在していて、そのどちらを選択するかに困惑する緊張状態(心的葛藤)や、個人間・集団間の見解の対立、思想的対立などという緊張状態(社会的葛藤)の表現に用いている。葛藤という語のかわりに抗争ということばを使っている文献もある。この葛藤という概念を初めて使用したのは精神分析学を樹立したフロイトで、心の深層から表面に出ようとするものと、それを抑えつけようとするものとの戦いを葛藤と名づけたのである。フロイトはこの葛藤を欲求不満とともに神経症の原因としていたが、この所見は20世紀の初頭以来変更されていない。この葛藤を心理学の分野で体系づけたのはレビンである。彼は次のような三つの代表的な葛藤のパターンがあると述べている。
(1)接近―接近葛藤 2人の男性からほぼ同時に結婚話があって両者のどちらも断りきれない女性の葛藤である。
(2)接近―回避葛藤 フグは食いたし命は惜しいというような葛藤である。また夫はとてもよい人であるが、夫の母親とはまったく気があわないというような葛藤がそれにあたっている。
(3)回避―回避葛藤 学校に行くのもいやだし、家庭にいるのもいやだというような葛藤である。
 これらのうち、(1)はどちらかを早く選択すれば苦悩に陥ることはないが、「釣り落とした魚は大きい」という諺(ことわざ)のとおり選択しなかったほうの価値がだんだん増強してきて苦悩することにもなる。(2)の葛藤は個人の精神保健に重大な悪影響を及ぼしてくるもので、実験神経症においてもネズミ、ネコ、イヌなどを用いて立証されている。(3)の葛藤は非行少年の家出の原因になるような葛藤である。自殺に追い込まれることもある。インターネットで連絡しあって集団自殺するのは1人で死ぬのは寂しいからであろうか。このようなケースでも(3)の葛藤のパターンが働いている。
 この三つのパターンのほかに4番目の葛藤をあげる学者もいる。それは「二重の接近―回避葛藤」とよばれるものである。世の中には完全に+(プラス)のものはないし、完全に-(マイナス)のものもない。+と-をいくらかずつ合わせもっているのである。通勤には便利であるが公害がひどい町と、通勤には不便であるが空気のよい町とのどちらを選ぶかで苦悩する葛藤である。現在、多くの心理学のテキストではレビンの三つのパターンにこのパターンを加えて、四つのパターンで葛藤を説明している。[大村政男]

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動植物名よみかた辞典 普及版の解説

葛藤 (クズフジ)

植物。マメ科の落葉つる性植物,園芸植物,薬用植物。クズの別称

葛藤 (ツズラフジ)

学名:Sinomenium actum
植物。ツズラフジ科の落葉つる性植物

葛藤 (ツズラフジ)

植物。ツズラフジ科の落葉つる性植物,薬用植物。アオツズラフジの別称

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精選版 日本国語大辞典の解説

かっ‐とう【葛藤】

〘名〙
① かずらと、ふじ。また、広く、蔓草(つるくさ)などの類をいう。〔日葡辞書(1603‐04)〕〔出曜経‐五〕
仏語。煩悩をたとえていう語。
※太平記(14C後)二四「望請天裁急断葛藤(カットウ)、於天龍寺者、須勅願之号、停止勅会之儀
③ 仏語。禅宗で文字にこだわって語句にとらわれることのたとえ。また、意味の錯雑して解きがたい文字、言句、公案、あるいは単に問答工夫の意にも用いる。
※正法眼蔵(1231‐53)面授「葛藤をもて葛藤に面授してさらに断絶せず」 〔碧巖録‐一則・評唱〕
④ (━する) 人と人との間や人の心の中などで、互いに争い、さからいあい、また、憎みあうこと。争い。もつれ。悶着。また、戦争。
※花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉六三「今葛藤(カットウ)氷解して妾復た君の顔貌を拝するを得」
※或る女(1919)〈有島武郎〉前「葉子は冷やかにあざ笑ひながら、夫人の心の葛藤を見やってゐた」
⑤ (━する)
(イ) 心理学で、二つ以上の対立する欲求が同時に働いて、そのいずれを選ぶか迷う状態。抗争。相克。
(ロ) 精神分析における根本概念の一つ。精神内部で、違った方向の力と力が衝突しあっている状態。

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最新 心理学事典の解説

かっとう
葛藤
conflict

二つ以上の動機(目標)が競合することを葛藤という。

【葛藤の三つの型】 ヒトや動物を,目標に対して接近させたり,回避させたりする環境内の対象の性質を誘意性valenceとよび,接近させる場合は「正の誘意性」,回避させる場合は「負の誘意性」とよぶ。誘意性は接近,回避の行動を引き起こす動機づけの働きをもつ。レビンLewin,K.は,葛藤には以下の三つの型があることを『パーソナリティの力学説A Dynamic Theory of Personality』(1935)で指摘した。

⑴接近-接近型葛藤approach-approach conflict 異なる二つの目標が,それぞれ等しい正の誘意性をもっている場合で,たとえば二つの大学に同時に合格し,しかもどちらにも入学したいようなケースである。接近-接近型葛藤は,普通,目標の一方を選択することにより比較的容易に解決される。

⑵回避-回避型葛藤avoidance-avoidance conflict 負の誘意性をもつ二つの目標にはさまれた状態で,いわば「前門の虎,後門の狼」といった状態をいう。たとえば,英語と数学の勉強をしなければならないが,両科目ともに苦手な科目であり,いずれの科目も勉強が手につかないといったときである。この場合,まったく無関係な行動,たとえば部屋の掃除をするなどして,その場から逃避するもできるが,それが不可能な場合,二つの目標の間にあって緊張と不快が継続することになる。

⑶接近-回避型葛藤approach-avoidance conflict 一つの目標が正と負の誘意性を同時にもつ場合である。たとえば,交際をしている相手からプロポーズを受けたが,その人の中の好きな面と嫌いな面とがほぼ同じぐらいである場合には,なかなか決断することができない。また,目標(正の誘意性をもつ)の前に障害(負の誘意性をもつ)がある場合も,この型に入れることができる。レビン(1935)は,水に恐怖心を抱いている子どもが,波打ち際にあるボールを取りたがっているという例を挙げている。子どもはボールを拾おうとして波打ち際に近づくが,ある地点で立ち止まる。水がボールに近づくのを妨げるが,同時にボールに対する魅力がそこから立ち去ることを妨げる。

 接近-回避型葛藤に関しては,ネズミを使った実験的検討がミラーMiller,N.E.(1944)によって行なわれている。餌を求めて目標地点まで来るようにネズミを訓練した後で,目標に到着するたびに電気ショックを与えた。この場合,目標は正と負の誘意性をもつことになり,ネズミは目標に向かって走り出すが,途中の地点で行きつ戻りつという葛藤の徴候を示すようになる。さらにミラー(1944)は,二重接近-回避型葛藤double-approach-avoidance conflictについても指摘している。これは,正の誘意性と負の誘意性を同時にもった二つの目標にはさまれた状態のことである。たとえば「A社とB社の2社から就職の内定をもらった。A社は福利厚生が手厚いが給料は安い。B社は給料が高いが雇用が不安定だ」といった場合である。

 葛藤は,フラストレーションfrustration(欲求不満)の源泉となる。一般に,フラストレーションは,フラストレーション状況,フラストレーション状態,フラストレーション反応という順番で進む。ヒトや動物が目標へ到達するための欲求充足行動の途中で,なんらかの障害によってその行動が妨害された状態をフラストレーション状況とよび,欲求阻止の結果としてもたらされる不快な緊張状態をフラストレーション状態とよぶ。ヒトや動物は,欲求不満という不快な緊張状態を解消するためになんらかの対処を行なうが,これがフラストレーション反応である。【対人葛藤interpersonal conflict】 対人葛藤とは個人間の不一致や対立を指し,社会生活における主要なストレス源であることから,個人の幸福や人間関係に影響を与えることが知られている。葛藤原因には願望の違い(利害葛藤),意見や見解の不一致(認知葛藤),規範(道徳,倫理,正義など)との適否をめぐる対立(規範葛藤)などがある(Thomas,K.W.,1992)。研究者たちは,葛藤原因にかかわるものとして社会的認知,状況要因,人格要因など,また解決方略を左右する認知・感情・動機づけ要因,それに葛藤結果の影響などを検討してきた。

 ドメスティック・バイオレンス(DV),すなわち家庭内暴力や虐待など深刻な社会問題の背景に家族間葛藤があることから,近年,夫婦・恋人など親密な男女間の葛藤に焦点が当てられている。ボウルビィBowlby,J.(1988)のアタッチメント理論によると,親密関係は個人が脅威に直面した際,苦悩を和らげ,これに対処する心的資源の回復をもたらすものである。母子関係において形成された個人の愛着スタイルは,長じて異性間の相互関係にも影響するが,愛着不安の強い個人は,拒絶されることに敏感であるため親密関係において葛藤を知覚しやすく,またこれをストレスと感じ,葛藤を激化させるように反応し(支配や攻撃など),その結果,関係悪化を招く傾向がある(Campbell,L.,et al.,2005)。こうした負の連鎖は,親密関係に対する彼らの偏った心的作業モデルmental working modelによるもので,これがパートナーに対するネガティブな帰属を促す。また,個人特性が自らストレス状況を招くとするストレス発生理論stress generation theory(Eberhart,N.K.,& Hammen,C.,2009)は対人葛藤にも当てはまり,愛着不安の強い個人は執拗な再保証要求によってパートナーを悩ませ,自ら恐れている葛藤を誘発してしまうことがある。

 もう一つの研究分野は,組織内の対人葛藤である。ストレッサーとしての葛藤は組織成員の作業能率を低下させ組織の機能性を損なうが,適切に解決される場合には有益な効果をもたらすこともある(表)。解決の良否を決める主な要因は,解決のために用いられる方略の種類である。この解決方略の分類については,従来,自己関心と他者関心の2軸上に協力,妥協,譲歩,競争,回避の5方略を位置づけるブレークBlake,R.R.とモートンMouton,J.S.(1964)のモデルがよく用いられてきたが,近年は分配(対決),統合(協調),回避の3方略モデルが簡便なものとしてよく用いられている(Kuhn,T.,& Poole,M.S.,2000)。いずれの解決方略が選択されるかを規定する要因の一つは葛藤のタイプである。信条・価値観・人格などの違いに由来する関係葛藤relationship conflictは対決を激化させやすいが,職務内容にかかわる適度の対立(職務葛藤task conflict)は統合的方略によって解決され,組織の活性化と効率化をもたらす可能性が高い(De Dreu,C.K.W.,2006; Jehn,K.A.,1997)。また,方略の選択を規定する個人要因としては,ユングJung,C.G.の理論に依拠するメイヤー-ブリッグス類型指標,仕事に対する姿勢の違いを表わすグレゴリック・モデル,主張性と反応性の2次元を仮定する社会的スタイル・モデル,それにコミュニケーション・スタイル,情動知能などが注目されている(McCorkel,S.,& Reese,M.J.,2010)。 →対人関係
〔佐藤 健二〕・〔大渕 憲一〕

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世界大百科事典内の葛藤の言及

【闘争】より

…特定の個人や集団,あるいは階級,民族,社会など複数の行為主体の間で,ある主体が――たとえば自己の目標達成を阻害するとか自己の感情と相いれないとか,自己にとってなんらかの妨げとなる(もしくは妨げになると思われる)――他の主体それ自体を排除したり他の主体の行為を妨害し停止させるという意図のもとで,相互に両極的な形をとって対立しあう相互作用形態をいう。たとえば国家間の戦争,学問上の論争,法廷での訴訟などがそれである。…

【紛争】より

…広義には,諸社会単位の間に成立している均衡関係を動揺・混乱させる行動を広く意味する。ここで社会単位とは,個人および個人が形成する集団を典型とするが,そのほか言語,宗教,種族,経済,政治その他で社会文化の特徴を共通にする人びとの集団ないし階層・階級であることもある。これらの社会単位間の紛争のうち最も代表的なものは,対立する当事者どうしが相手方の保持・支配する価値を争って意識的に攻撃・防御する相互行動であり,これを対争と呼んでもよいが,実際には多くの態様がある。…

【演劇】より

…つまり演劇ということばは,日本の舞台芸術の近代化=西洋化の内部では,西洋近代型演劇をモデルに歌舞伎を改良する企てと結びついて用いられたために,たとえばは演劇ではないとする主張が能の側からなされたりもした。そのうえで,〈劇〉という漢字が虎と豕(いのしし)が闘う表意から〈はげしい〉の意をもつため,日本語の言語感覚としては〈激しい対立・葛藤を演ずること〉という読みかえが暗黙のうちに行われていて,それがおそらく,多数の人々の語感のなかで,西洋演劇のある種のものに照応する結果にもなったのである。演劇も劇も同じ舞台表現を指しうるが,演劇の方にはその視覚的展開が,劇の方には対立・葛藤する事件が強調され,劇はまた,比喩的に舞台と関係なく対立・葛藤の構造を指しうる(〈内心の劇〉など)。…

※「葛藤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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