デジタル大辞泉
「矛盾」の意味・読み・例文・類語
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む‐じゅん【矛盾・矛楯】
- 〘 名詞 〙
- ① ほことたて。武器。ぼうじゅん。〔後漢書‐東夷・倭伝〕
- ② ( ━する ) 武器をとって戦うこと。戦争を起こすこと。また、激しく敵対すること。
- [初出の実例]「論者東西、互相矛楯」(出典:菅家文草(900頃)七・顕揚大戒論序)
- 「当院衆徒中既及鉾楯之企云々」(出典:親元日記‐寛正六年(1465)五月一日)
- ③ ( 形動 )( ━する ) ( 昔、中国の楚の国に、矛と盾を売る者があり、この矛はどんな盾でも突き破ることができ、また、この盾はどんな矛でも防ぐことができると自慢していたが、ある人に「お前の矛でお前の盾を突いたらどうなるか」と言われ、答えに困ったという「韓非子‐難一」の故事から ) 事の前後が揃わないこと。つじつまの合わないこと。自家撞着すること。また、そのさま。ぼうじゅん。
- [初出の実例]「但し院省の新布達に矛楯するものは、此限に非ず」(出典:地方官会議日誌‐一八・明治八年(1875)七月一二日)
- ④ 論理学で、同じ主語について、互いに否定しあう判断をくだしたものを連立させた命題の性質。たとえば、「猫は動物であるが、猫は動物ではない」のたぐい。ヘーゲル弁証法では、概念の展開をもたらす積極的な契機。現代論理学では、一つの命題とその否定とが同時に成り立つことを主張する命題。〔哲学字彙(1881)〕
ぼう‐じゅん【矛盾】
- 〘 名詞 〙 ( 「ぼう」は「矛」の漢音 ) ほことたて。転じて、つじつまの合わないこと。むじゅん。
- [初出の実例]「師の道をわすれ鳳子をしたはず、彌矛盾(バウジュン)となれり」(出典:評判記・色道大鏡(1678)九)
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矛盾
事の前後が食い違うことのたとえ。つじつまの合わないことのたとえ。
[使用例] 君なぞはせんだっては刑事巡査を神のごとく敬い、また今日は探偵をスリ泥棒に比し、まるで矛盾の変怪だが[夏目漱石*吾輩は猫である|1905~06]
[使用例] 「昨日のこと、覚えてるわね?」何気ない声でお母さんが言うけど、緊張が感じられた。昨日は忘れろって言ったのに、今日はそう聞いてくる。ムジュンしてる[辻村深月*ぼくのメジャースプーン|2006]
[由来] 「[韓非子]―難一」に出てくる話から。その昔、中国の楚の国に、盾(剣や矢を受け止める防具)と矛(剣の一種)を売っている人がいました。彼は、「私の盾は堅くて、どんな矛も突き破ることはできない」と言う一方で、「私の矛は鋭くて、どんな盾でも突き破ることができる」とも宣伝しています。そこである人が、「子の矛を以て子の楯(盾)を陥さば、何如(おまえさんの矛でおまえさんの盾を突いたら、どうなるのか)」と尋ねると、その商人は答えに詰まってしまったということです。
[解説] ❶この話は、「韓非子」では、儒学者を批判するためのたとえとして使われています。儒学者は、堯と、彼の後を継いだ舜という二人の聖王を崇拝していますが、本当に堯が聖王だったのならば、その直後の舜は何もする必要がなかったはずだし、舜が聖王だとすれば、堯の政治が至らなかったということになる、というわけです。❷現在では、広く「つじつまが合わない」ことを指して使われる、一般語となっています。その一方で、同時には成り立たない二つの命題の関係を指す、論理学の用語にもなっています。応用範囲の広さでは、故事成語の中でも一級でしょう。
出典 故事成語を知る辞典故事成語を知る辞典について 情報
矛盾 (むじゅん)
contradiction
中国のつぎの故事に由来する語。〈楚の国に矛(ほこ)と盾(たて)を売る商人がいて,“この矛はどんな盾をも貫き,この盾はどんな矛も通さない”といったが,“では,その矛でその盾を突いたならば,どうなるか”と問われて返答に窮した〉(《韓非子》)。それゆえ,元来,つじつまのあわぬこと,筋の通らぬこと,あるいは物事が齟齬(そご)・対立することの意味に用いられてきたが,多くは論理的な意味で,あることを同時に肯定し,かつ否定することとして用いられる。一般に,命題pに対して〈pかつpでない〉という形で表現されるが,これは明らかに論理的に不可能であり,端的に不合理を表現しているといえる。したがって,矛盾を生ずるとは,論理的にあってはならぬことであり,矛盾のおこりえぬこと,すなわち〈pかつpでないということはない〉を無矛盾律または矛盾律law of contradictionと呼び,論理的原理の一つとみなされている。話を論理的に展開するとき,矛盾をきたさないようにすることは基本的な条件なのである。
執筆者:大出 晁
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矛盾
むじゅん
contradiction
矛盾ということばは、いかなる盾(たて)をも突き通す矛(ほこ)と、いかなる矛をも防ぐことができる盾が同時に存在することはありえない、という中国の故事から発している。このように、同時に成り立つことができない二つの命題は互いに矛盾しているといわれる。また、命題「A」と命題「Aでない」が同時に導かれる場合に、矛盾がおきたということもある。
矛盾は二律背反という形で古代から知られていた論理学上の現象であったが、19世紀末以来発展してきた近代論理学と、それに基づく数学基礎論の出現によって、矛盾という問題は重大化してきた。すなわち、「それ自身をメンバーとして含まない集合の集合」はそれ自身に含まれると同時に含まれない、というラッセルの二律背反の発見によって、数学とくに集合論が本当に矛盾するかどうか、矛盾するとするならば、いかにそれを回避できるかということが、数学基礎論の直面する基本的問題として提起されるに至った。そして、算術、集合論といった公理系が矛盾しない、つまりその無矛盾性の証明が企てられるようになった。
しかしながら、矛盾は数学その他の証明において絶えず用いられていることを忘れてはならない。たとえば、ある命題から矛盾が導かれるならば、その命題は否定されるという背理法がその例である。
[石本 新]
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矛盾
むじゅん
contradiction
2つの名辞や命題間で,同一の要素を同一の観点からみた場合,同時に一方が肯定し他方が否定するとき,この両者の関係をいう。特に伝統的論理学では,全称肯定命題と特称否定命題,全称否定命題と特称肯定命題の関係を矛盾対当と呼んだ。上の定義は形式論理学 (→三段論法 ) によるもので,アリストテレスにさかのぼり,伝統論理学も踏襲したものである。なお,現代論理学では要素命題がいかなる値をとっても偽である命題を矛盾的といっている。弁証法にあっては,矛盾は単に除去されるべき消極的なものではなく,発展の契機,克服の対象として積極的にとらえられている。特に唯物弁証法にあっては,この矛盾が客観的事物のなかに存在していると考え,矛盾の発生やその克服を発展に不可欠の要素としている。
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矛盾【むじゅん】
中国の故事――矛(ほこ)と盾(たて)の商人がいて,〈この矛はどんな盾をも貫き,この盾はどんな矛をも通さない〉と言い,〈では,当の矛でその盾を突けばどうなるか〉と問われ反答に窮した(《韓非子》)――に由来する語。一般に筋が通らぬこと,齟齬(そご)すること。論理学用語(英語contradictionなどの訳)としては,ある命題を同時に肯定しかつ否定すること。矛盾を禁じる矛盾律ないし無矛盾律は論理法則の一つ。
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矛盾
矛と盾を商う者がいて、この盾の堅牢さは通すものなしと誉め、またこの矛の鋭利さは通さざるものなしと誇った。見物の人が問う「子の矛を以て子の盾を通さば如何?」。商う者には答えがなかった。韓非はここでは賢人と権勢とが相容れないという「矛盾の説」をなした。
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普及版 字通
「矛盾」の読み・字形・画数・意味
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