理無(読み)わりない

精選版 日本国語大辞典 「理無」の意味・読み・例文・類語

わり‐な・い【理無】

〘形口〙 わりな・し 〘形ク〙 (「割り無い」で、ことわり(理)が無いの意)
道理に外れている。分別がない。わきまえを失っている。理性でどうにもならない。
古今(905‐914)恋四・六八五「心をぞわりなき物と思ひぬるみる物からや恋しかるべき〈清原深養父〉」
※浄瑠璃・近江源氏先陣館(1769)六「三浦之介にわりなき恋路」
② 無理である。強引である。
※宇津保(970‐999頃)祭の使「折しもこそあれ、わりなき召しかな」
読本椿説弓張月(1807‐11)続「毛国鼎は、なほ面を犯して諫んとするに、近臣わりなく押隔(へだて)
③ どうしようもなくつらい。たえがたく苦しい。こらえきれないほどである。どうにもやるせない。
落窪(10C後)一「夜一夜、しらぬことによりうちひき給ひつるこそいとわりなかりつれ」
※源氏(1001‐14頃)空蝉「をととひより腹をやみて、いとわりなければ、しもに侍りつるを」
④ やりようがない。どうしようもない。仕方がない。やむを得ない。余儀ない。是非もない。
※落窪(10C後)一「帯刀(たちはき)わりなしと思へり」
※枕(10C終)一九六「いみじう酔ひて、わりなく夜ふけてとまりたり」
⑤ どうしていいかわからない。途方にくれる。困ったことである。
※後撰(951‐953頃)恋二・六二九・詞書「男侍る女を、いとせちにいはせ侍りけるを、女いとわりなしといはせければ」
※堤中納言(11C中‐13C頃)逢坂越えぬ権中納言「宮は、さすがにわりなく見え給ふものから、心つよくて、明けゆくけしきを」
⑥ やっとのことである。かろうじてである。
今昔(1120頃か)二九「破无くして此(か)く隠れて命を存する」
⑦ 程度が分別を超えている。どうしようもないほどである。はなはだしい。ひととおりでない。
※伊勢物語(10C前)六五「猶わりなく恋しうのみおぼえければ」
※栄花(1028‐92頃)かがやく藤壺「かくて七月相撲の節にも成ぬれば、わりなき暑さをばさる物にて」
⑧ 言いようがないほど美しい。非常に感動的である。
山家集(12C後)下「岩に堰(せ)閼伽(あか)井の水のわりなきは心澄めとも宿る月哉」
⑨ 格別すぐれている。殊勝である。
無名抄(1211頃)「霞に浮ぶ沖の釣舟、といへる、わりなきふしを思ひ寄りなんにとりて」
一通りでなく親しい。分別を超えて親密である。切っても切れない。
御伽草子・福富長者物語(室町末)「鬼うば憎けれど、さすがわりなき中なれば、皺(しわ)多き手を煖めておなかをさすれば」
浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)一「わりなく云(いひ)かはせし女郎をうけ出し」
⑪ いじらしい。とてもかわいい。〔名語記(1275)〕
曾我物語(南北朝頃)一〇「をさなき時よりとりそだてて、わりなき事なれば」
わりな‐げ
〘形動〙
わりな‐さ
〘名〙

わり‐な【理無】

(形容詞「わりない」の語幹) むりであること。どうしようもないこと。分別がなく、あまりにもひどいこと。感動表現に用いる。
※宇津保(970‐999頃)祭の使「あなわりなや、折しもこそあれ、わりなき召しかな」

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