日本大百科全書(ニッポニカ) 「生理的塩類溶液」の意味・わかりやすい解説
生理的塩類溶液
せいりてきえんるいようえき
動物から摘出した組織や器官を長時間正常に近い状態に保ち生かしておくための浸漬液(しんしえき)、灌流液(かんりゅうえき)として用いる塩類溶液。平衡塩類溶液ともいう。その動物の血清などの体液に類似したイオン組成、浸透圧、水素イオン濃度(pH)をもつように調整されている。海産の十脚(じっきゃく)類ではマグネシウムイオンが海水の約半分であるなど人工海水の変形の溶液であるが、その他の多くの海産無脊椎(むせきつい)動物では普通の人工海水がこの目的に使用される。海産のサメ、エイなどでは、浸透圧は海水に近いが多量の尿素を含む溶液である。その他の多くの動物では、浸透圧が海水の3~5分の1で、海水と同様に塩化ナトリウムイオンを主体とし少量のカリウムイオン、カルシウムイオンを含むさまざまの溶液である。これらはそれぞれの処方者の名をとってリンガー溶液Ringer's、タイロード溶液Tyrode'sなどともいう。また、リンガー溶液が最初のものであることからこの名で総称することもある。
[馬場昭次]