軟骨魚綱Chondrichthyes真板鰓(しんばんさい)亜綱Euselachii板鰓下綱Elasmobranchiiのエイ形魚類の総称。同じ板鰓下綱のサメ形魚類とは、鰓孔(さいこう)が体の腹面に開口すること、目の上部眼瞼(がんけん)が眼球と接続していることなどの特徴で区別される。エイ類のそのほかの一般的特徴として、体が縦扁(じゅうへん)して平たいこと、口と鼻孔が頭部腹面に、目と噴水孔が背面にあること、胸びれが大きく側方に張り出し、さらにその前部が頭部側面に接続すること、尾部の発達が悪く、背びれや尾びれが小さく、あるいは退化して1本から数本の毒針を有し、ときに尾部が鞭(むち)状に伸長すること、鱗(うろこ)が退化傾向にあり、多くの種であまり発達しないことなどがあげられる。エイ類は2017年時点で世界では636種以上、日本近海では80種ほどが知られている。
[仲谷一宏 2021年9月17日]
エイ類はノコギリエイ目、シビレエイ目、ガンギエイ目、トビエイ目の4目に分類される。
ノコギリエイ目
ノコギリエイ目Rhinopristiformesはショベルノーズレイshovelnose raysとよばれ、日本近海ではノコギリエイ科Pristidae、サカタザメ科Rhinobatidae、シノノメサカタザメ科Rhinidae、ウチワザメ科Platyrhinidaeなど6科に6属8種が知られている。ノコギリエイ目の体形はよりサメ形に近く、尾部がよく発達し、体の鱗もよく発達するために、和名で「○○ザメ」と語尾にサメをつけてよばれるものが多い。
ノコギリエイ科はソーフィッシュsawfishesとよばれ、非常に大形で、一見ノコギリザメと酷似するが、鰓孔が腹側にあるなどの特徴があり、エイの仲間である。日本近海には1種が分布する。サカタザメ科はその形からギターフィッシュguitarfishesとよばれ、科の学名は「皮膚がざらざらしたエイ」の意味である。日本近海には1属2種が分布する。シノノメサカタザメ科はシャークレイshark raysとよばれ、その頑強な体は非常に特徴的である。日本近海には1種が分布する。ウチワザメ科はファンレイfanraysとよばれ、その科の学名は「皮膚がざらざらした幅の広いエイ」の意味で、鱗が発達し、胸びれが丸く側方に張り出し、尾部の発達はサカタザメ科と比較すると弱いのが特徴である。日本近海からは1属2種が知られている。
シビレエイ目
シビレエイ目Torpediniformesはエレクトリックレイelectric raysとよばれ、文字どおり大きな発電器官を目の後方にもち、獲物を捕まえるときや危険を感じたときに放電する。日本近海からは背びれを2基もつタイワンシビレエイ科Narcinidaeとヤマトシビレエイ科Torpedinidae、背びれが1基のみのシビレエイ科Narkidaeの3科3属6種が知られている。
ガンギエイ目
ガンギエイ目Rajiformesはスケート・レイskates and raysとよばれ、エイ類のなかでもっとも種数が多い。胸びれが側方によく発達するが尾部は弱く、背びれや尾びれが小さいなどの特徴をもつ。おもに温帯から寒帯の海域に分布する。日本近海からはヒトツセビレカスベ科Arhynchobatidae、ガンギエイ科Rajidae、ホコカスべ科Anacanthobatidaeに9属34種が知られている。
ヒトツセビレカスベ科はソフトノーズスケートsoftnose skatesとよばれ、東北・北海道など冷水域に分布する種が多く、吻(ふん)が柔らかなことが特徴である。日本近海には3属20種が分布する。ガンギエイ科はスケートskatesとよばれ、おもに温帯に分布し、吻が硬いことが特徴である。日本近海には5属13種が分布する。ホコカスべ科はレッグスケートleg skatesとよばれ、腹びれ前部が独立し、足のような特異な突起をもつ。日本近海には1属1種が分布する。
トビエイ目
トビエイ目Myliobatiformesはスティングレイstingraysとよばれ、大形のエイ類が多く、日本近海からはムツエラエイ科Hexatrygonidae、ツバクロエイ科Gymnuridae、アカエイ科Dasyatidae、トビエイ科Myliobatidae、イトマキエイ科Mobulidaeなど8科20属33種が知られている。
ムツエラエイ科はシックスギルスティングレイsixgill stingraysとよばれ、1980年に創設された科である。それまでは、エイ類の鰓孔はすべて5対(つい)というのが常識であったが、南アフリカで6対の鰓孔をもったエイが採集された。魚類学の既成概念を打ち破ることとなった珍しいエイで、ムツエラエイ属Hexatrygon(6対の鰓孔をもったアカエイの意)と命名された。その後、数種が記載されたが、すべてが同一種とされ、現在は1科1属1種である。
ツバクロエイ科はバタフライレイbutterfly raysとよばれ、体盤が非常に幅広いことが特徴である。日本近海には1属2種が分布する。
アカエイ科はスティングレイstingrays(英名はトビエイ目と同じ)とよばれ、尾部が鞭状で背びれがなく、そのかわりに1本から数本の毒針をもち、なかには尾びれをもつものもある。温熱帯海域に分布し、大部分の種は沿岸性で浅海底にすむが、外洋表層域に適応した種もある。日本近海には11属17種が分布する。
トビエイ科はイーグルレイeagle raysとよばれ、胸びれが前進して体の最前部に達し、可動的な吻端を形成すること、小さな背びれがあるが尾びれはなく、尾部が鞭状であることなどの特徴をもつ。吻端に突出した胸びれは遊泳や摂餌(せつじ)のときにさまざまに形を変化させ有効な機能を果たす。科の学名は「石臼(いしうす)状の歯をもったエイ」の意味で、特徴的な歯の形に由来する。日本近海には3属5種が分布する。
イトマキエイ科はデビルレイdevilraysとよばれ、トビエイ科に比べ胸びれがさらに前方に張り出し、体の前端で1対の頭鰭(とうき)cephalic finとなり、角(つの)状に突出する。熱帯海域が主要分布域で、日本近海にはオニイトマキエイMobula birostrisなど1属5種が分布する。エイ類はもともとが底生性であるが、イトマキエイ科は表層域へと生息域を拡大したグループで、きわめて大形になる。最大種はオニイトマキエイで体幅9メートル、体重3トンにもなり、通称のマンタMantaは「毛布」の意味である。
トビエイ目には、南米アマゾン川水系に生息するポタモトリゴン科Potamotrygonidaeのエイ類も含まれる。エイ類は大部分が海産で、ごく一部の種が川を上り汽水や淡水域に侵入するが、このポタモトリゴン科のエイは塩類排出のための器官が大いに退縮しており、純淡水でなければ生存できない。1属30種ほどが知られているが、体盤が丸く、派手な模様があるので、観賞用として輸入されている。
[仲谷一宏 2021年9月17日]
雄は腹びれ内縁に腹びれの変形物である1対の交尾器をもち、体内受精をする。エイ類には卵生と胎生があり、前者はガンギエイ目にみられ、四角形の卵殻卵を産む。一方、ノコギリエイ目、シビレエイ目、トビエイ目は胎生で、子は母体の子宮の中で最初は自分の卵黄で、卵黄の使用後は子宮壁などから分泌される脂質栄養物(子宮ミルク)を受けて成長する。エイ類にはサメ類にみられる胎盤型の胎生はない。
[仲谷一宏 2021年9月17日]
産業的に重要なものはガンギエイ目やトビエイ目アカエイ科のエイ類で、トロール網や延縄(はえなわ)で漁獲され、練り製品の原料、塩干品、生鮮魚として利用される。ほかはあまりまとまってとれないので産業的には重要ではない。
[仲谷一宏 2021年9月17日]
昔、航海する舟が見知らぬ島に上陸すると、京の都のように広大なアカエイの背中であったという「アカエイの京」という説話があるが、エイの仲間には体長が数メートル、重さが2トンを超える巨大なものがいて、悪魔の魚と恐れられている。また九州地方では、竜巻の漏斗雲(ろうとぐも)が遠くから見るとエイの尾のように見えるところから、竜巻のことを「エイのうお」という。大阪市浪速(なにわ)区の広田神社や、神戸市長田(ながた)区の長田神社の境内社(けいだいしゃ)には、痔(じ)病にきくというアカエイの図柄の絵馬が奉納される。
[矢野憲一]
軟骨魚綱エイ目に属する魚類の総称。英名では,アカエイ類をray,ガンギエイ類をskate,ノコギリエイ類をsawfish,サカタザメ類をguitarfish,シビレエイ類をelectric rayという。全世界の熱帯域から極地方まで広く分布する。世界に約500種,日本近海には75種余りが分布する。多くは海水で生活するが,南アメリカにすむPotamotrygonidae科の淡水エイは一生を淡水で送り,海水では生きられない。また,アカエイ科やノコギリエイ科のものには熱帯や亜熱帯の河川湖沼域で生活周期の一部を送る種類がある。海産のエイはごく浅い沿岸域から2500mの深海域までのさまざまなところに生息するが,多くは沿岸から大陸棚域にすむ。
一般にサメとエイとは体型で区別されるが,サメと名はついていてもサカタザメのように分類上からはエイであるものもいる。サメとは,(1)鰓孔(えらあな)はすべて体の腹面にあること,(2)ふつう胸びれが大きく,その前縁部は鰓孔より前で頭部側面とつながること,(3)眼は背部にあり,上まぶたは眼球とつながり,瞬膜をもたないことで区別される。エイは一般的に体がひらべったく,口は必ず腹面にあり,歯は細かくて先がとがらず敷石状に並び,噴水孔は必ず背部にあり,しかも眼と接近する場合が多い。尾部は細長く,ときにはむち状になり,背びれは尾部上にあるかまたはまったくなく,代りに1~数本の毒針がある。尾びれは小さいかまたはまったくなく,しりびれはない。うろこは退化して部分的にしか存在しないかまたはまったくなく,ときにはとげ状や瘤状の突起となる。大きさは全長数十cmから7~8mまでさまざまである。
日本近海のエイはふつう次の8科に分類される。吻(ふん)が突き出てその両側にぎざぎざのある歯が並ぶノコギリエイ科Pristidae,吻は長いが,両側に突起のないサカタザメ科Rhinobatidae,体板がまるく,体中に細かいうろこのあるウチワザメ科Platyrhinidae,背中に多少のうろこをもち尾部の細長いガンギエイ科Rajidae,うろこがほとんどなくむち状の尾に毒針のあるアカエイ科Dasyatidae,うろこはまったくなく,胸びれと頭の間に発電器官のあるシビレエイ科Torpedinidae,胸びれが大きく,頭の先端がまるく突き出たトビエイ科Myliobatidae,頭の先にコウモリの耳のようなひれ(頭鰭(とうき))のあるイトマキエイ科Mobulidaeである。このほかアカエイ科に近い淡水産のPotamotrygonidae科,吻端がフィラメント状に突出するAnacanthobatidae科,鰓孔が6対あるHexatrygonidae科が外国に分布する。
系統的には約1億3000万年前の中生代ジュラ紀末ごろからサカタザメ類の祖先型がサメ類より分化し,白亜紀になってガンギエイ類,アカエイ類,トビエイ類が現れ,新生代第四紀になるとイトマキエイ類がトビエイ類から分化して表層性になったものとされる。
イトマキエイ科を除くほとんどのエイが底生生活を送り,海底近くにすむ小動物,甲殻類,貝類,小魚を餌とする。イトマキエイ類は頭鰭を動かして動物プランクトンや小魚を食べ,ノコギリエイ類は吻で海底を掘って餌を探す。また,シビレエイ類はおもに防御用に発電器官を使うが,ときには餌となる魚を感電させるという。発電器官はガンギエイにもあるが,弱くおもに仲間や異性への発信信号として役だっているといわれる。アカエイ類の毒針ももっぱら防御用に使用される。
雄には腹びれの一部が変化した交尾器があり,雌の子宮か卵殻腺で受精する。ガンギエイ類を除けば,体内で受精卵が孵化(ふか)する卵胎生で,10尾前後の子どもを生むことが多い。ガンギエイ類は数個~数十個の硬い卵殻に包まれた卵を産む。
アカエイ類やシビレエイ類は危険ではあるが,人間に積極的には危害を加えない。アカエイ類とガンギエイ類はヨーロッパやアジアでは食用とされる。日本ではガンギエイ類の胸びれがエイのひれとして珍重される。また,日本ではサカタザメ類の肉やひれを食用とするが,外国では貝の養殖場に被害を与えるとしてきらわれることが多い。アカエイ類の中には背面の瘤状の突起が滑り止めとして刀剣の柄に用いられることがある。一般にエイ類は漁業資源としては重要ではない。
執筆者:谷内 透
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