体液(読み)タイエキ(その他表記)body fluids
humor

精選版 日本国語大辞典 「体液」の意味・読み・例文・類語

たい‐えき【体液】

  1. 〘 名詞 〙 動物の体内で細胞外にある液体の総称。脊椎動物では血液、リンパ液、組織液に区別される。〔医語類聚(1872)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「体液」の意味・わかりやすい解説

体液 (たいえき)
body fluids
humor

動物体内の細胞外に存在する液体の総称。細胞外液ともいう。血液,リンパ液,細胞間液,体腔液などの区別がある。脊椎動物の循環系は閉鎖型であって,これらの区分がはっきりしており,血液は血管内を,リンパ液はリンパ管内を流れるが,開放循環系をもつ節足動物や軟体動物,そのほか一般に無脊椎動物では,血液とリンパ液と細胞間液ははっきり区別できず,体液は血リンパと呼ばれることがある。

 体液は細胞にとっての直接の環境であるから,その恒常性の維持は動物の生理機能にとって重要な意味をもつ。そのため動物には,体液の浸透圧,水素イオン濃度,ブドウ糖濃度,そのほか種々のイオンや物質の濃度,組成を一定に保つための調節機構が備わっている。また定温動物の体温調節にも体液は重要な役割を果たしている。体液の主たる働きは,循環作用を通じて種々の物質を運搬することで,呼吸器官-組織間の酸素と二酸化炭素,腸管から各組織への栄養物質,各組織から腎臓への老廃物内分泌腺から標的組織へのホルモンなどが運ばれる。そのほか,体液中の白血球は食菌や免疫などの生体防御機能をもっている。
執筆者:

医学では上記の細胞外液のほかに,細胞内液をも含めたものを体液と呼んでいる。その総量はヒトでは体重の約60%を占める。

 生体の体細胞は,皮膚に包まれた〈体内の海〉(C. ベルナールはこれを内部環境と表現した)ともいうべき細胞外液中に浸っている。細胞は細胞外液から酸素および栄養素を取り入れ,代謝老廃物をそこへ出す。海水にくらべて,細胞外液の塩類濃度は低いが,塩類の種類と組成の割合は似ている。おもな電解質は陽イオンではNa⁺,陰イオンではCl⁻とHCO3⁻である。そのほか低濃度ではあるがほぼ一定の濃度でK⁺,Ca2⁺,Mg2⁺などの陽イオン,およびHPO42⁻,H2PO4⁻,SO22⁻などの陰イオンが含まれている。体液の約1/3を占める細胞外液はさらに二つに分けられる。細胞間隙かんげき)(間質)にあって直接細胞に接している間質液(細胞外液の約3/4)と,血管内にあって全身を循環する血漿(けつしよう)(細胞外液の約1/4)である。間質液と血漿は毛細血管壁を通じて溶質の交換を行い,これによって間質液の性状,組成はほぼ一定に保たれ,細胞の活動に必要な適正な生活環境(内部環境)が維持される。血漿と間質液の電解質組成に本質的な差はないが,後者のタンパク質濃度は低い。これは毛細血管壁の性質による。リンパは間質液がリンパ管に入ったものとみなしてよい。

 体液の2/3を占める細胞内液は,タンパク質濃度が高くコロイド溶液をなし,細胞の生活に必要な生化学的反応の媒体である。細胞内液の電解質組成は細胞外液と著しく異なる。おもな陽イオンはK⁺であり,陰イオンはH2PO4⁻,HPO42⁻,各種の有機酸,タンパク質である。K⁺は細胞外液中のNa⁺にほぼ匹敵する濃度で含有されており,細胞内ではほとんど自由なイオンとして存在する。細胞内にはそのほかMg2⁺,Ca2⁺,Cl⁻,HCO3⁻なども含まれる。Mg2⁺はほとんどタンパク質,ミトコンドリア小胞体などに結合しており,自由なイオンはきわめて少ない。Ca2⁺も大部分が結合型である。
執筆者:

体液は,すでに古代ギリシア・ローマの医学でその存在が注目され,心身の病態の説明原理として盛んに取り上げられた。中国や日本など東洋の医学で,昔から気や風の変化から疾患を〈病む気〉,つまり〈病気〉として説明してきたのとはきわめて対照的で,こうした体液病理学による医学的思考は,ルネサンス以後に解剖学が進歩して器官の病理学(固体病理学)と入れかわるまで,ヨーロッパで支配的だった。

 古代ギリシア・ローマでヒッポクラテスやガレノスらにより取り上げられるのは,粘液phlegm,血液blood,黒胆汁melancholy(black bile),胆汁(黄胆汁choler,yellow bile)という4種の体液であり,これらの平衡と調和を保つことが健康の条件で,ある体液に過剰,不足,移動などが起これば,心身の変調や病態が生じると考えられた。例えば,てんかんの発作は,冷たい粘液が突然脈管内に流れ込んで血液を冷却,停滞させる場合に起こるが,粘液流が多量で濃厚なときには,血液を凝結させるから,直ちに死を招く。しかし,20歳を越すと,脈管には豊富な血液が充満するから,粘液の流入が生じにくく,したがって,発作はまれにしか起こらなくなるとされた(ヒッポクラテス《神聖病論》)。また,今日のうつ病にあたるメランコリアmelancholiaが体内の黒胆汁の過剰から起こり,その名も,ギリシア語のメランmelas(黒い)+コレcholē(胆汁)に由来することなどはよく知られている(メランコリー)。体液は,そのどれが優勢であるかによって,個人の心的特性を類型化する基準にもなり,ここから有名な四つの気質,すなわち,粘液質,血液質(または多血質),黒胆汁質,胆汁質ができあがった。恒常的な気質だけでなく,そのときどきの一時的な気分やきげんが,体液の状態によって規定されると考えたのも同じ発想で,その痕跡は体液のラテン語humorが西欧語に入って,文字どおり〈ユーモア〉の意味をとどめている点にもうかがえる。
気質
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「体液」の意味・わかりやすい解説

体液
たいえき

ヒトおよび動物の体内に含まれる液体成分を総称して体液という。ヒトの場合、体液は男子で体重の約60%、女子で約55%を占める。体液は細胞の内部に含まれる細胞内液と、細胞の外に存在する細胞外液とに分けられる。細胞内液は全体液の約3分の2を占め、細胞外液は約3分の1を占める。細胞外液の代表的なものは血液(血漿(けっしょう))であるが、そのほかに間質液、リンパ液などがある。細胞内液の組成はカリウムイオンが多く、細胞外液にはナトリウムイオンおよび塩素イオンが多い。

 身体を構成する細胞の中では、エネルギー産生のほか、さまざまな化学反応が行われているが、これらはすべて水溶液の形をとって行われる。すなわち体液、とくに細胞内液が生体内化学反応の場となるわけである。一方、細胞外液は主として生活現象に必要な物質の輸送を媒介している。たとえば、各種栄養素や各細胞から排泄(はいせつ)された二酸化炭素は水溶液の形で輸送され、酸素は血漿中に浮遊する赤血球に結合して各組織に送られる、などである。細胞内液と間質液とは細胞膜を隔てて相接し、間質液と血液は毛細血管壁を隔てて相接している。また血液は肺においては外気と、腎臓(じんぞう)においては尿と相接し、これらの間で盛んに物質交換を行い、生体機能維持のうえで不可欠の役割を果たしている。なお、水は比熱が大きく、かつ化学的に安定であるため、体温その他生体の内部環境を一定に保つためにも役だっている。

[真島英信]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「体液」の意味・わかりやすい解説

体液
たいえき
body fluid; humor

体内に存在する水分の総称。体液は身体の内部環境を恒常に保つため,常にその全量,浸透圧,pHなどが一定に維持されるように調節されている。体重の 60~70%が水分で,40%は細胞内,20%は細胞外にある。細胞外液はおもに間質液で,残りが血漿やリンパ,脳脊髄液など。女性は男性に比べて全体液量が5%ぐらい少い。これらの体液成分は体内を移動し,組織細胞へ栄養分や酸素を運び,老廃物を運び去ったり,病原体撲滅,体温調節などの機能をもつ。なお古くヒポクラテスは,血液,粘液,黄色胆汁,黒色胆汁を四大体液とし,その不調和が病気の原因になると考えた。

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百科事典マイペディア 「体液」の意味・わかりやすい解説

体液【たいえき】

動物体内で細胞の外にあって流動し得る液体のこと。細胞外液とも。脊椎動物では血液リンパ液,および組織液に分化しているが,無脊椎動物ではこの区別がなく,体液を血(けつ)リンパと呼ぶことがある。なお医学では,細胞内液を含めて,体の液性成分全体をいい,ヒトでは体重の約60%を占める。
→関連項目脱水症

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栄養・生化学辞典 「体液」の解説

体液

 生体の液状成分の総称.血液,リンパ液,間質液,脳脊髄液,細胞内液など.

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世界大百科事典(旧版)内の体液の言及

【ユーモア】より

…英語でhumour(アメリカ英語ではhumor),ドイツ語でHumor,フランス語でhumeur,イタリア語でumore,これらの原語となっているのはラテン語のhumorである。本来この語は,ギリシアのヒッポクラテス以来の古い医学説によって人間の身体の中に流れていると考えられた,4種類の液体を指した。…

【性格】より

…その始まりはひじょうに古く,古代ギリシアにさかのぼり,伝統の一方は16世紀のフランスのモラリストたちに継承され,モンテーニュ,パスカル,ラ・ブリュイエールなどの随想録,箴言集などには深い理解と洞察が見られ,文学作品の中にも興味深く描かれている。他方,科学的にはやはりギリシアで2世紀にガレノスが体液を4種類(血液,胆汁,黒胆汁,粘液)に分け,それに従って4気質(多血質,胆汁質,憂鬱(ゆううつ)質,粘液質)の分類を行っている。その後生理学の進歩とともに体液と気質との関連づけは否定されるようになったが,気質の4類型は長く用いられた。…

【精神医学】より

…こうした超自然的疾病観に自然的疾病観で対抗しようとしたのが古代ギリシア・ローマの医学で,たとえばヒッポクラテスは早くも前5世紀後半その《神聖病論》で,癲癇(てんかん)の原因が神や聖なるものではなく脳にあることを主張した。そのほか,今日の鬱(うつ)病と躁病にあたるメランコリアmelancholiaとマニアmaniaについても体液説の視点から解明を試みている。体液の変動を引き起こす要因としては,気候,風,水,蒸気,食物,遺伝,生活習慣などが挙げられた。…

※「体液」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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