日本大百科全書(ニッポニカ) 「縮小写像の原理」の意味・わかりやすい解説
縮小写像の原理
しゅくしょうしゃぞうのげんり
完備な距離空間における縮小写像はただ一つの不動点をもつ。このことを縮小写像の原理とよび、微分方程式などいろいろな方程式の解の存在や一意性を示すために使われる。fを空間Xからそれ自身への写像とする。このとき関係f(x)=xを満たすXの点xをfの不動点という。Xはdを距離としてもつ距離空間とする。Xの任意の点x、yに対し
d(f(x), f(y))≦Ld(x, y)
が成り立つような1より小さな正数Lが存在するとき、fをX上の縮小写像という。このとき、Lが1より小であることに注意すれば、fの不動点は存在するとしてもただ一つであることがわかる。x0をXの任意の点とし、x1=f(x0)と定め、以下順次xn=f(xn-1)なる関係で点列{xn}を定める。このとき、n, p=1, 2,……に対し、
d(xn+p, xn)≦Lnd(xp, x0)
≦Ln(Lp-1+……+1)d(x1, x0)
が成り立つ。右辺はn→∞のとき0に収束するので、{xn}はXのコーシー点列になる。よって、Xが完備ならば極限
が存在する。fが連続であることに注意すれば、この点xがfの不動点になることがわかる。
[小林良和]