ドゥクス(英語表記)dux

翻訳|dux

改訂新版 世界大百科事典 「ドゥクス」の意味・わかりやすい解説

ドゥクス
dux

一般的には〈案内者〉〈指導者〉を意味するラテン語。軍事的にはすでに3世紀,ローマの軍団長と軍団高級将校の中間地位を表す称号となっていたが,ディオクレティアヌス帝によって始められた民政軍政分離に際し,辺境属州で国境防衛にあたる軍隊指揮官の称号となった。〈軍司令官〉〈監軍〉などと訳される。当初は騎士身分だったが,ウァレンティニアヌス1世治下に元老院議員身分を与えられるようになった。その管轄領域は通常1属州だが,ときにそれ以上の地域に及ぶこともあった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のドゥクスの言及

【爵位】より

…国と時代により差異はあるが,一般に知られている爵位は,公(デュークduke),侯(マーキスmarquis),伯(アールearl),子(バイカウントviscount),男(バロンbaron)の5位階である(かっこ内は英語)。これらのうち,公と伯の呼称が歴史的に見て最も古く,それぞれ古ゲルマンの軍事統率者であるドゥクスdux(ドイツ語はヘルツォーク,フランス語はデュクduc),フランク国王の統治権とりわけ裁判権を地方管区ごとに執行する役人としてのコメスcomes(ドイツ語はグラーフ,フランス語はコントcomte)とにさかのぼる。封建制度の発達にともなって,両者はいずれも官職的性格を失って,封建諸侯の称号となり,公は国王の直属封臣のうち最高の位を占めた。…

【ヘルツォーク】より

…古ゲルマン人のもとで,戦時に置かれる最高の軍隊指揮官で,多くの場合有力豪族が選ばれた。フランク王国でも大公の制度が認められるが,これはローマ帝国末期,国境守備軍の指揮官として各地に置かれた将軍(ドゥクスdux)の制度を継承したもので,主として辺境地域に置かれた。メロビング朝末期,王権の弱体化と各地豪族の自立化に伴って,チューリンゲン,バイエルン,アラマン,フリーゼン,アクイタニアに大公が出現する。…

【リミタネイ】より

…後期ローマ帝国の国境防衛軍に対する一般的名称。おもに騎兵部隊と歩兵部隊から成り,各地区の軍司令官(ドゥクスdux)が指揮した。部隊は普通移動することはなかったが,ときどき偽野戦軍(プセウドコミタテンセスpseudocomitatenses)となったり,時にまた野戦軍(コミタテンセスcomitatenses)に格上げされて移動した。…

【爵位】より

…国と時代により差異はあるが,一般に知られている爵位は,公(デュークduke),侯(マーキスmarquis),伯(アールearl),子(バイカウントviscount),男(バロンbaron)の5位階である(かっこ内は英語)。これらのうち,公と伯の呼称が歴史的に見て最も古く,それぞれ古ゲルマンの軍事統率者であるドゥクスdux(ドイツ語はヘルツォーク,フランス語はデュクduc),フランク国王の統治権とりわけ裁判権を地方管区ごとに執行する役人としてのコメスcomes(ドイツ語はグラーフ,フランス語はコントcomte)とにさかのぼる。封建制度の発達にともなって,両者はいずれも官職的性格を失って,封建諸侯の称号となり,公は国王の直属封臣のうち最高の位を占めた。…

【フランク王国】より

…旧説によれば,フランク王権をはじめ中世初期の部族国家の王権は,キウィタス相互間の征服・統合の過程で,その世襲王権=神聖王権が部族全体の上に拡大されたものとみなされたのであるが,新説では神聖王権からの連続性の面より,新しい要素の加わった点を強調し,この新しい要素を軍隊王権という概念で説明する。タキトゥスは平時における王の権限と,戦時に置かれる軍事指揮官(ドゥクス)の権限とを対比し,前者が無制限の権限を有しなかったのに対し,後者には絶対服従を要求しうる命令権が与えられたことを指摘しているが,このドゥクスの権限が,民族移動の戦乱期に,戦争時のみでなく平和時にも拡大・恒常化された結果,軍隊王権が成立したと考え,フランク王国をはじめ,中世初期の諸部族王国の王権は,この軍隊王権を中核として形成されたとみなす。この新説はフランク族をはじめ民族移動期に登場する大部族(シュタム)の形成過程に関する新しい考え方と結びついている。…

【ヘルツォーク】より

…古ゲルマン人のもとで,戦時に置かれる最高の軍隊指揮官で,多くの場合有力豪族が選ばれた。フランク王国でも大公の制度が認められるが,これはローマ帝国末期,国境守備軍の指揮官として各地に置かれた将軍(ドゥクスdux)の制度を継承したもので,主として辺境地域に置かれた。メロビング朝末期,王権の弱体化と各地豪族の自立化に伴って,チューリンゲン,バイエルン,アラマン,フリーゼン,アクイタニアに大公が出現する。…

※「ドゥクス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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