ハードボイルド映画 (ハードボイルドえいが)
hardboiled-detective film
〈ハードボイルド〉という英語に〈非情な〉〈冷酷な〉というニュアンスが生じたのは19世紀末であるといわれているが,アメリカでは文学の用語から映画にも使われるようになり,非情,冷酷なタッチの映画がこの名で呼ばれ,その典型的な主人公が一匹狼的な私立探偵であることから,〈ハードボイルド・ディテクティブ・フィルム〉と命名され,探偵映画(ディテクティブ・フィルム)の変種として一つのジャンルとみなされるに至った。
ダシール・ハメット原作,ジョン・ヒューストン監督の《マルタの鷹》(1941),ジェームズ・M.ケイン原作,ビリー・ワイルダー監督の《深夜の告白》(1944),レイモンド・チャンドラー原作,ハワード・ホークス監督の《三つ数えろ》(1946)などがその原型とされているが,この〈ハードボイルド映画〉も含めて,1940年代,第2次世界大戦中から流行しはじめた暗い非情なタッチのアメリカの犯罪映画を総括して〈フィルム・ノワール〉と呼ぶこともある。
→フィルム・ノワール
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内のハードボイルド映画の言及
【アメリカ文学】より
… 第1次世界大戦を経て,戦後のいわゆる[ロスト・ジェネレーション]の作家たちは,1920年代の〈荒地〉的風景において,その名の示す通り,神の恩寵から見放された人間の状況を書いた。F.S.フィッツジェラルドは《偉大なるギャッツビー》(1925)その他の作品で[ジャズ・エージ]の夢が崩壊するさまを書き,ヘミングウェーは《陽はまた昇る》(1926)以下の作品において〈ハードボイルド〉と呼ばれる,タフ・ガイが非情に語るような文体を駆使して現代の空虚に生きる人間を示した。フォークナーも特異な文体家であるが,代表作《響きと怒り》(1929)などにより,南部社会の深層を〈[意識の流れ]〉の手法の開拓やトウェーン伝来の語り口を通じてみごとに剔出して見せた。…
【推理小説】より
… デュパン以後の素人探偵が,あまりにも人生をゲーム視しすぎ,鼻につくほどの知性やペダンティズムを示すのに不満な現実派は,市井の泥沼で手足を汚すことを迫られる現職警官や素人探偵を主人公に置く。とくに社会不安が深刻になってきた1930年代から,タフな神経と肉体を持つ一匹狼が巨大な社会組織に立ち向かうという,いわゆる〈[ハードボイルド]〉小説,例えば[D.ハメット],E.S.ガードナー(1889‐1970),[R.チャンドラー],ロス・マクドナルド(1915‐83)など,アメリカ独特の作家の作品が広く世界中で歓迎され,同傾向の作家が各国に出現した。この種の小説の特色は,感情におぼれない,とくに女性の魅力に動かされない男の強烈な個性と,心理より行動に重点を置く簡潔な口語的文体である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」