日本大百科全書(ニッポニカ) 「バッカイ」の意味・わかりやすい解説
バッカイ
ばっかい
Bakchai
ギリシア神話の酒神ディオニソス、すなわちバッコスの女性信徒の呼称。単数形バッケーBakchēも用いられ、男性の信徒はバッコイとよばれた。ディオニソス信仰の特徴は、信者の群れが祭儀の熱狂と興奮から神がかりの忘我の状態となって狂い回る点にあり、それはとくに女性の信者に甚だしかった。山野を駆け巡り、手には木蔦(きづた)で飾った木の枝の杖(つえ)ティルソスthyrsosを持ち、炬火(きょか)を振りかざして叫び声を発しつつ乱舞する。ときには野獣を捕まえて引き裂き、生肉(なまにく)を食べたり、大木を引き抜いたりするなどの異常な力を発揮し、バッコスに反抗するオルフェウスやペンテウスをばらばらに裂いてしまうこともあった。酒神に狂わされてバッカイとなった女たちもいたが、いずれにせよバッコスにつき従っている半狂乱の信女たちはバッカイ、マイナデスMainades、ティイアデスThiadesなどとよばれた。
[伊藤照夫]