ギリシア神話ではきわめて異色の性格をもつ神。別称をバッコスBakchosといい、ローマ神話ではバッコスをディオニソスの呼称とした。ディオニソスは、ゼウスを中心とするオリンポスの神々のなかにあってあまり素姓がはっきりせず、ホメロスでもわずかにブドウづくりの神として登場するにすぎない。これは、当時この神の崇拝が新来のものであったとの証拠にはならないが、その信仰がギリシア各地に広まるについては彼をめぐる伝説からも知られるように、かなりの抵抗があった。つまり、伝統的な宗教からすれば信仰の様式や内容が際だって異彩を放つため、明らかに危険なものを感じさせたのであろう。彼はもともと北方のトラキア地方から入ってきた神で、大地母神と天空の神の子であり、植物の生成と繁茂の神格であったらしい。ギリシアではやがてブドウの栽培とともに酒の神となり、激しい陶酔状態を伴う宗教的狂乱の祭儀は、オルフェウス教などの神秘的な密儀へと結び付いていった。ディオニソスはパンやサティロス、シレノスらを従え、さらに炬火(きょか)やティルソスという木蔦(きづた)を巻き付けた霊杖(れいじょう)を振り回しつつ乱舞する信女たち(バッカイとかマイナデスとかいわれる)を率いて山野をさまよう。
彼はゼウスとセメレの子とされる。セメレは嫉妬(しっと)したヘラに欺かれ、ゼウスにヘラの所へ通うときと同じ姿で自分の前に現れるよう求めた。やむなくゼウスが雷霆(らいてい)とともに寝室に現れると、彼女はその灼熱(しゃくねつ)に焼かれて死ぬ。ゼウスは胎内から6か月のディオニソスを取り出し、自分の太腿(ふともも)に縫い込んだ。月満ちて生まれ出てからもヘラの迫害を受け続けたディオニソスはブドウの木を発見したが、やがて狂気に陥れられてエジプトやシリアをさまよう。しかしフリギアの女神レアによって狂気から目覚め、彼女から秘儀を授けられた。それからの彼は熱狂的な信者を従え、布教のための遍歴と迫害との戦いに明け暮れるが、それはこの神の勝利と栄光の物語となっている。彼の宗教をないがしろにする者には過酷な懲罰が下されたが、多くの陰惨な物語のなかで、テバイ(テーベ)王ペンテウスの最期は、エウリピデスの『バッコスの信女』に精彩に描かれている。ディオニソスはアポロンと対置され、芸術の激情的、本能的な創作衝動を体現するものとされ、とくに演劇と密接にかかわっている。ギリシア悲劇は彼の祭儀から発生したという説もある。
[伊藤照夫]
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
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