改訂新版 世界大百科事典 「ファナリオット」の意味・わかりやすい解説
ファナリオット
Phanariot
もとの意味はイスタンブールのファナルPhanar地区(トルコ語ではフェネルFener。灯台の意)に住む住民をさしているが,17世紀後半から台頭したギリシアの商業貴族の多くが,ファナル地区にあった東方正教会の総主教座を中心としてこの地区に住んでいたため,とくにこの新興貴族層をさすようになった。その代表的家族としては十指ほどあげられ(マブロコルダトス家,モルジ家,イプシランディス家,スツォス家,ハンジェルリ家,カリマキ家,ギカ家など),彼らはおもに東西貿易によって財をなしたが,そのすべてがギリシアの出身ではなかった。ファナリオットは総主教の選挙に影響力をもったほか,オスマン政府と結んで帝国内の要職(政府首席通訳官,提督通訳官,ワラキア・モルドバの公)に就いた。ギリシア解放戦争(1821-29)が始まると,これに反対する保守的な態度をとったが,結局オスマン政府によってその諸特権を奪われた。ワラキア・モルドバの公位も1821年のワラキアの農民反乱後,現地出身貴族によって占められるようになり,ファナリオットという階層は消滅していった。
執筆者:萩原 直
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報