クローン動物(読み)クローンドウブツ(英語表記)Cloned animals

デジタル大辞泉 「クローン動物」の意味・読み・例文・類語

クローン‐どうぶつ【クローン動物】

体細胞クローン技術によって作り出された動物の総称。未受精卵に乳腺細胞などの体細胞を移植し、雌の子宮に戻して発生させる。成功率はきわめて低い。
[補説]哺乳類の体細胞クローンの第1号は、1996年に英国で作られたヒツジドリー。現在ではマウスウシヤギブタなどでも成功しているが、成功率は低く、遺伝子発現の異常が高頻度で生じている。移植する体細胞の初期化が不完全なことが原因とされ、メカニズム解明を目指す研究が行われている。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

六訂版 家庭医学大全科 「クローン動物」の解説

クローン動物
クローンどうぶつ
Cloned animals
(遺伝的要因による疾患)

同じ遺伝情報をもつ動物たち

 クローンという言葉は、古代ギリシア語で「小枝」を意味します。植物では、小枝を使った挿し木によって、同じ遺伝子をもった個体が古くからつくられてきています。このことが、「クローン」あるいは「クローニング」という言葉の元になったと考えられます。

 生物学の分野では「同じ遺伝情報をもつもの」という意味で、遺伝子、細胞、個体などに使われます。ですから、クローン動物とは同じ遺伝情報をもつ動物たちのことをいいます。

受精卵クローンと体細胞クローン

 クローン動物は、作製の仕方によって「受精卵クローン」と「体細胞クローン」とに分けられます。

 受精卵クローンは、受精した卵が細胞分裂卵割(らんかつ))を続けていく初めのころの段階((はい))の細胞を使う方法で、これには初期胚の割球(かっきゅう)(卵割によって生じた未分化の細胞)を用いた「胚分割クローン」と初期胚の核を用いた「核移植クローン」があります。

 胚分割クローンというのは、未分化の胚を複数に分割したもので、人為的に一卵性多子をつくることです。核移植クローンというのは、未受精卵の核を別の細胞の核と入れ替えたものをいいます。初期胚の核移植クローンは、1980年代にマウス、ヒツジ、ウシなどで成功していました。

 一方、体細胞クローンとは、成体の体細胞(皮膚や筋肉など)を用いた核移植クローンのことをいいます。1996年に、初めてヒツジのドリーが誕生し、その後、マウスやウシなどでも体細胞クローンが成功しました。

大量にできる体細胞クローン

 クローン動物というと、現在では体細胞クローンのことをいうようになりました。なぜなら、受精卵クローンの場合、これからつくられる動物の性質をあらかじめ知ることはできませんが、体細胞クローンの場合は、実在する性質のわかっている個体や、すでに死亡した個体でも生前凍結保存された細胞さえあれば、理論上は同じ遺伝子をもった個体を大量につくることができることになるからです。

 ヒツジのドリーは、すでに死亡していたヒツジの乳腺上皮細胞の核移植によってつくられました。生物学上、この実験は、すでに分化した細胞の核でも、個体をつくる全能性があるということを哺乳類で初めて示した例となりました。

 同時に、クローン人間の誕生が現実視されることとなり、一般の人の注目を浴びることになりました。ただし現在のところ、クローン技術は世界的に、ヒトへの応用は禁じられています。

クローン技術の今後

 クローン技術は、有用動物の大量生産や、絶滅の危機に(ひん)している希少動物の保護、再生医療への応用など、多くの応用面での可能性が示されています。しかし、現在までにクローン動物は何らかの異常を伴って生まれてくることが多いことが報告されています。残念ながらこの原因は、まだはっきりわかっていません。

 私たちの体を構成する細胞は、免疫系の一部の細胞を除いて同じ遺伝情報をもっています。しかし、分化した細胞は、DNAのメチル化の状態やクロマチン構造などの塩基配列の変化を伴わない変化が起こっており、全能性を発揮するには、未分化と同じ状態への初期化が完全に行われることが重要だということがわかり始めてきています。

 応用面ばかりが注目されるクローン技術ですが、細胞分化とはどういうことなのかというような、生物学的に重要な問題の解決の糸口となることは間違いないと思われます。

中野 芳朗

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

知恵蔵 「クローン動物」の解説

クローン動物

遺伝的な構成(全遺伝子)が全く同一の動物個体。人間での一卵性双生児は自然に発生する稀なクローン個体。人為的な作製方法には受精卵クローン法と体細胞クローン法がある。(1)受精卵クローンでは、母体より受精卵を取り出し、初期胚の段階で細胞をバラバラにし、それらの細胞を培養して胚盤胞(子宮に着床する直前の時期の胚)まで成長させて代理母に移植する。あるいは、受精卵の各細胞と、あらかじめ除核した未受精卵とを電気的に細胞融合させ、これを培養して胚盤胞まで成長させ、代理母に移植する。(2)体細胞クローンでは、除核した未受精卵と体細胞を用いてクローン個体を得る。体細胞とは、身体の各部に分化した細胞をいう。体細胞クローンは1970年に英国でカエルで初めて作製され、哺乳類では97年に英国でのヒツジ(名前はドリー)が最初。その後、ウシ、マウス、ブタ、ヤギなどで体細胞クローンが作製されている。

(川口啓明 科学ジャーナリスト / 菊地昌子 科学ジャーナリスト / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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