哺乳類(読み)ほにゅうるい(英語表記)mammal

精選版 日本国語大辞典 「哺乳類」の意味・読み・例文・類語

ほにゅう‐るい【哺乳類】

〘名〙 (Mammalia訳語) 脊椎動物の一綱。ふつう「けもの」と呼ばれる動物群。単孔目・有袋目・食虫目・翼手目・霊長目・貧歯目・齧歯目・鯨目・長鼻目・食肉目奇蹄目・偶蹄目などを含む。南極大陸ニュージーランドなどを除く世界各地に約四三〇〇種余りが分布する。ふつう特有の毛でおおわれる。恒温性。目、鼻、耳などの感覚器官がすぐれ、知能発達する。卵生は単孔目のみで、他はすべて胎生。子は一定期間、母親の乳で育てられる。哺乳綱。〔動物学(1874)〕
[補注]挙例の「動物学」で、「鳥類」などにならい「哺乳+類」という複合語として使用されたのが古い例であるが、一般化したのは明治後期か。

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デジタル大辞泉 「哺乳類」の意味・読み・例文・類語

ほにゅう‐るい【哺乳類】

哺乳綱の脊椎動物総称皮膚に毛を生じ、汗腺かんせん乳腺などがあり、子を乳で育てる。肺呼吸をし、鳥類とともに恒温動物で、心臓は完全に二心房二心室の四つに区画される。大脳半球が大きく発達。単孔類以外は胎生中生代三畳紀の後期に爬虫はちゅうから分かれ、新生代に急速に繁栄現生種は有袋食虫翼手霊長食肉クジラ偶蹄ぐうてい奇蹄長鼻齧歯げっしウサギなど約4300種に分類。
[類語]脊椎動物無顎類魚類両生類爬虫類鳥類

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「哺乳類」の意味・わかりやすい解説

哺乳類
ほにゅうるい
mammal

脊椎(せきつい)動物門哺乳綱に属する動物の総称。この綱Mammaliaの仲間は、中生代三畳紀後期に爬虫(はちゅう)類から分かれて恒温性、胎生性を獲得し、恐竜類の絶滅で生じた空白のニッチ(生態的地位)を埋めて栄えた分類群である。現生種約4300種、陸生種は南極大陸とニュージーランド(2種のコウモリを除く)以外の大陸、大陸島に自然分布し、海生種は全海洋に分布する。

[今泉吉典]

特徴

体長4~5センチメートル、体重1.5~1.8グラムのチビトガリネズミから、全長30メートル、体重110トン以上のシロナガスクジラまで、大きさ、体形とも変化に富むが、雌はかならず乳腺(にゅうせん)を備え、乳汁を分泌して子を育て、シロイルカ以外は皮膚に毛を生ずる。このため「けもの」(毛物、転じて獣)ともいう。下顎(かがく)は歯骨だけからなり、後上端で鱗骨(りんこつ)と直接関節する。爬虫類で顎関節を形成していた関節骨と方形骨は中耳に移動し、耳小骨のツチ骨(槌骨)、キヌタ骨(砧骨)となる。このため鼓膜の振動を拡大して内耳のリンパに伝える能力が飛躍的に高まり、かたつむり管とコルチ器の発達、耳介の出現と相まって聴覚が鋭くなった。可聴範囲はメンフクロウで200~1万ヘルツ、カエルで200~1500ヘルツなのに対し、ヒトで20~2万ヘルツ、その上限はコウモリで十数万ヘルツ、クジラでは20万ヘルツ以上に達する。体腔(たいこう)は筋肉質の横隔膜で胸腔、腹腔に分かれ、活発な呼吸が可能となる。心臓は完全な4室に分かれ、心房・心室間には右に三尖弁(せんべん)、左に二尖弁がある。大動脈弓は左側の1個しかない。頭骨は不可動性で、2個の後頭顆(か)、口腔と鼻腔を区画する二次口蓋(こうがい)を備える。精液を通す陰茎をもち、赤血球は無核である。

[今泉吉典]

主要形態と機能

四肢は爬虫類と異なり肘(ひじ)が後方、膝(ひざ)が前方へ回転し、前進が容易になる。原始的なものでは足底全部を地につけて歩く蹠行(しょこう)性であるが、進んだものでは指行性、蹄行(ていこう)性となる。ときに前肢が翼やひれに変化し、後肢が消失する。皮膚は柔らかく鱗(うろこ)を欠き、汗腺、皮脂腺、臭腺、毛を備え、つめはときに平づめやひづめに変化する。毛は鱗のそばに新規に生じたもので、上毛、下毛、触毛などに分化し、体温調節、皮膚の保護、触覚、においの発散などに重要な働きをする。肋骨(ろっこつ)は胸椎に限られ胸郭を形成する。頸椎(けいつい)は海牛類とナマケモノ類の一部以外はつねに7個、第1頸椎は環椎、第2頸椎は軸椎となる。烏口(うこう)骨は肩甲骨の烏口突起になり、上腕骨は肩甲骨の下端部と関節し、有蹄類などでは鎖骨が消失する。各指の指骨はクジラ類などを除き、第1指が2個、ほかの指は3個である。歯は上顎骨、前顎骨、歯骨(下顎骨)にのみ生じ、歯根部は歯槽に収まる。また門歯、犬歯、前臼歯(ぜんきゅうし)、臼歯に分化し(異歯性)、臼歯を除き乳歯と永久歯がある(一換性)。臼歯には3個またはそれ以上の突起(錐(すい))があって三角形かW字形に並び、上下の錐がかみ合って食物を切断し、基部で押しつぶす砕錐歯が原形であるが、食性に応じた変化が甚だしい。口腔内には顎下腺、舌下腺、耳下腺などの唾液(だえき)腺がある。

 胃はしばしば複雑化し、反芻(はんすう)類などではセルロースを分解するバクテリアが共生する。腎臓(じんぞう)は後腎で機能が優れ、海生のものでも塩腺を必要としない。輸卵管の下部は子宮と腟(ちつ)に変化し、精巣は進化したものでは腹腔から出て陰嚢(いんのう)内に降下する。鼻腔内には複雑な鼻甲介があり、肺へ送る空気を温める。肺は多数の肺胞に分かれ、大形種では表面積が100平方メートル以上に達する。肺循環と体循環が完全に分かれ、腸と肝臓を結ぶ門脈系がある。大脳半球が大きく、大脳皮質は大部分が新外套(がいとう)からなる。一般的なにおいの受容器は鼻腔内の嗅(きゅう)上皮であるが、性的なにおいのそれは口蓋と鼻腔の間にあるヤコブソン器官である。色覚は昼行性のサル類、リス類など以外では種々の程度に退化し、夜行性のものでは網膜の後ろに光を反射する特殊な膜(タペータム)がある。哺乳類が爬虫類にかわって繁栄したのは恒温性、子の保育、社会生活の発達によるところが大きい。

[今泉吉典]

恒温性

体温は内温性で、ラクダや温帯生のコウモリではある程度変温性であるが、ほかは気温とある範囲内で無関係な恒温性である。直腸内体温は単孔類約30℃、アルマジロ、ナマケモノ約32℃、カンガルー、ハリネズミ、ゾウ約36℃、チンパンジー、オランウータン約37℃、ナキウサギ、ウサギ、ネコ、オオカミ、イノシシ、シカ、バイソンなどでは38℃以上に達する。体温の低下は、毛を直立させ毛衣に含まれる空気を増やして防ぎ、トナカイは四肢の温度を下げて体熱のロスを防ぐ。体温が上がりすぎたとき、ヒトやウマは全身の汗腺から汗を出して下げるが、イヌやネコは汗腺が足底の肉球にしかないため、舌や肺で水分を気化して血液を冷却する。汗腺はクジラ、マナティー、キンモグラにはない。恒温性のため哺乳類の母親は妊娠を安全に継続し乳汁を継続的に製造できるが、このため生まれた子も爬虫類より成長がずっと速い。内温性を保つには多量のエネルギーを必要とするが、哺乳類の消化器、呼吸器、循環器は爬虫類より機能が優れていて、この要求を満たしている。

[今泉吉典]

保育

乳汁の組成は種によっても、成長の段階によっても変化し、つねに子の要求に合致している。また乳汁には母親が獲得した感染病の抗体が含まれている。爬虫類の子は成長が遅く天敵に殺されやすい期間が長いが、哺乳類の子は親の保護下で安全かつ速やかに成長し、生活に必要な知識や技術(狩りの技術など)を学んだのち独立する。この保育により親子の緊密なきずなが形成される。歯は、離乳が近づき、あごがある程度大きくなるまで生えない。そのころにはあごの成長速度が落ちているので、歯は上下の錐が正しくかみ合い、そしゃくに支障ないよう調整できる。

[今泉吉典]

社会生活

保育で形成された親子、兄弟のきずなは長い間保たれ、しばしば緊密な群れが形成される。群れの個体は主として嗅覚(きゅうかく)で識別され、皮脂腺、汗腺、臭腺の分泌物が重要な働きをする。臭腺は皮膚表面の特定部位に密集していることもあるが、カモシカの眼下腺、シカの中足腺、イヌ、ネコ、イタチなどの肛門(こうもん)腺、ジャコウネコの会陰(えいん)腺、ジャコウジカの雄の包皮腺などのように袋の内面に分布し、表面積を広げていることもまれでない。臭腺の分泌液は縄張り内の木や石につけてサインポストとする。そのにおいは送り主が立ち去ったあとも、数日間その個体の社会的地位、発情の状態、そのほかいくつかの情報を伝え続ける。

[今泉吉典]

進化と系統

爬虫類獣弓目のなかの二重の顎関節(関節骨・方骨間関節と歯骨・鱗骨間関節)をもったものから三畳紀後期に分かれ、顎関節が歯骨・鱗骨間関節だけになったのが哺乳類である。全身骨格が知られている最古の哺乳類は南アフリカのエオゾストロドン(三丘歯目)で、体長約10センチメートル、半樹上性であった。臼歯には縦1列に並んだ3錐があるが、同時代のクエネオテリウム(相称歯目)では3錐が三角形に並ぶ(錐三角)。後者から獣亜綱が、前者から原獣亜綱のほかの仲間が生じた。同じころ現れたハラミヤ(ミクロクレプテス)の臼歯には片側に大きな3錐、反対側に小さな5錐がある。これから、新生代第三紀の初めまで栄えた、草食性の多丘歯目が進化したと思われる。多丘歯目はほかとの関係が不明なため、異獣亜綱(三丘歯目を含める考え方もある)として区別されることもある。相称歯目からは、臼歯の錐三角の後ろに台状の歯踵(ししょう)を備えた全獣目がジュラ紀に現れ、これから白亜紀に後獣下綱(有袋目)と真獣下綱が生じた。真獣下綱には単孔目、有袋目以外のすべての現生哺乳類が含まれ、新生代に急速に繁栄して哺乳類時代を出現した。

[今泉吉典]

『杉靖三郎・今泉吉典・西脇昌治監修『現代生物学大系4 脊椎動物B』(1976・中山書店)』『D・W・マクドナルド著『動物大百科1~6巻』(1986・平凡社)』


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百科事典マイペディア 「哺乳類」の意味・わかりやすい解説

哺乳類【ほにゅうるい】

最も進化した脊椎動物の一綱。雌が乳腺から乳を分泌し,それによって子を育てるところから哺乳の名がある。俗にけもの(獣,毛者の意)といわれるように,皮膚は毛でおおわれる。脳は一般に大きく,特に大脳が発達,動作が活発で運動能力にすぐれ,視・聴・嗅(きゅう)覚はいずれも鋭く,知能が高い。これらの基礎となるおもな特性は体温を一定に保つ能力(恒温性)である。有毛で心臓が4室(2心房2心室)に分かれ,筋肉質の横隔膜があり,汗腺が発達し,下顎が頑丈で歯が分化することなどは恒温性保持に必要な機構である。また胚には羊膜があり,多くは胎生で胎盤が発達し,子は十分に発育してから生まれ,肛門と泌尿生殖系は別々に開口する。この恒温性,胎生性のため,哺乳類は外界の影響を受けることが少なく,熱帯から極地まで広く分布することができた。哺乳類は三畳紀の哺乳類型爬虫(はちゅう)類であるキノドン類から生じたとされる。原獣亜綱と真獣亜綱に大別されるが,現生種では前者に属するのは単孔目のみである。現生種は約4500種。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「哺乳類」の意味・わかりやすい解説

哺乳類
ほにゅうるい
Mammalia; mammal

脊索動物門脊椎動物亜門哺乳綱の動物の総称。体は毛,ときに鱗でおおわれ,汗腺,脂肪腺などが発達している。四肢も通常よく発達している。ほとんどの種は上下顎に歯をもち,門歯,臼歯,犬歯などに分化しており,グループに特有の歯式をもつ。心臓は2心房2心室で,体温は恒温性。神経系はよく発達し,特に中枢である脳の発達が著しい。単孔類を除き胎生で,雌は発達した乳腺をもち,それで哺乳して育児する。多くは陸上生活をするが,水中生活に適応したグループもある。現生のものは世界で約 4200種が知られている。

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世界大百科事典 第2版 「哺乳類」の意味・わかりやすい解説

ほにゅうるい【哺乳類 Mammal】

乳腺から乳を分泌し,それで子を育てる脊椎動物の1群。胚には羊膜があり,ふつう胎生,恒温性で,四肢をもち,聴覚が鋭く,知能が高い。皮膚に毛があるため一般にけもの(獣)とも呼ばれる。脊椎動物門四足上綱哺乳綱Mammaliaに属し,現生種約4500種がある。従来の上位分類群の系統分類はほとんどが頭骨と歯の形態に基づいたものであったが,近年重要な化石の発掘が相次ぎ,それらの体骨格の研究が開始された結果,分類が大幅に改訂されつつある。

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栄養・生化学辞典 「哺乳類」の解説

哺乳類

 脊椎動物門の一綱で,乳で哺育する動物.

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世界大百科事典内の哺乳類の言及

【口蓋】より

…一般に脊椎動物における口腔つまり口の空所の天井をいう。鳥類,大半の爬虫類,およびそれ以下の動物のもつ口蓋と,一部の高等爬虫類および哺乳類の口蓋とは構造がまったく違うので,前者を一次口蓋,後者を二次口蓋とよんで区別する。ふつう魚類では,鼻孔は口の付近にある嗅覚をつかさどる1対の穴で,口腔には通じないから鼻腔というものがない。…

【脊椎動物】より

…海,淡水,陸のほとんどあらゆる環境に生息し,体の大型なものが多い。爬虫類時代(中生代)や哺乳類時代(新生代)の名で知られるように動物界でもっとも顕著な類を含み,重要な家畜,実験動物のほとんどがこの類に属する。現生種は約4万4000あり,無顎(むがく)綱(ヤツメウナギなど),軟骨魚綱(サメ,エイなど),硬骨魚綱(ニシン,コイ,スズキなど),両生綱(イモリ,カエルなど),爬虫綱(カメ,トカゲ,ヘビ,ワニなど),鳥綱,哺乳綱が含まれる。…

【乳房】より

…哺乳類の乳腺を覆う膨らんだ部分で,その先端に乳頭papilla mammalがある。乳房はウシ,ヤギ,ヒツジなどの家畜では顕著であるが,野生の哺乳類では授乳期においてもあまり明らかでなく,乳頭によってその存在がわかる程度のものが多い。…

※「哺乳類」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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