翻訳|uterus
女性の内性器で、小骨盤腔(くう)のほぼ中央にあり、前後にやや扁平(へんぺい)な鶏卵大の臓器をいい、受精卵の着床とその後の発育の場となり、これを保護する役割をもつ。
発生学的にみれば胎生期卵管の一部が癒合してできたもので、正面からみると西洋ナシ状を呈し、子宮の下方3分の1の細くくびれた円柱状の部分を子宮頸(けい)、上方3分の2の膨大した袋状の部分を子宮体、その内腔を子宮腔とよぶ。子宮は骨盤腔内に三つの靭帯(じんたい)によって保持される。前方は膀胱(ぼうこう)、後方は直腸、下方は腟(ちつ)、上方は腹腔に接する。子宮頸と子宮体の間でやや前かがみの状態に屈曲(前屈)しているのが普通である。子宮腔は子宮体の最上部(子宮底)の両側で1対の卵管に連絡し、腹腔に通ずる。また下方の子宮頸を経て腟内に通じ、子宮頸の下端部は腟内に突出しており、子宮腟部とよぶ。子宮は成人で上下約7センチメートル、左右約4センチメートル、子宮壁の厚みは約2センチメートルもあり、平滑筋からなる。この筋肉層は妊娠時、胎児の発育とともに発達して筋線維の数が増え、十数倍の大きさとなって強大な張力に耐える。この筋肉が収縮するときの力が分娩(ぶんべん)の主役を演じ、陣痛とよばれる。子宮体の内面は粘膜で覆われ、子宮内膜といい、厚さは月経周期や年齢によって異なるが、1.5~6.0ミリメートルである。
子宮内膜は卵巣周期に応じてきわめて規則正しい変化を示し、増殖期と分泌期の2相の時期を繰り返す。増殖期は細胞の増殖を主とし、卵巣ホルモンのエストロジェン(卵胞ホルモン。エストロゲン)の作用による。分泌期は増殖期に続く受精卵の着床に必要な細胞の分化を主とするもので、増殖期を分泌期にするのは排卵後に形成される卵巣の黄体から産生されるプロゲステロン(黄体ホルモン)の作用である。受精卵が着床しない場合は子宮内膜が壊死(えし)に陥り、剥脱(はくだつ)して月経の発来となる。月経後にまた内膜は再生し、次の受精卵着床の準備態勢に入る。このようにして約30年間は、妊娠期間を除き、子宮内膜は剥脱と再生を繰り返す。なお、子宮内膜とは別に子宮頸部を覆う頸管内膜は、子宮内膜と異なり厚さも薄くて1.0ミリメートルで、周期性変化も乏しいが、エストロジェンに反応して水様透明な多量の粘液を分泌するので、エストロジェンに対する反応の検査、排卵の診断、精子貫通など、いろいろの生殖機構上、重要な意義をもつ。
妊娠は、卵管内で受精した受精卵が子宮腔内に下降し、着床のためすでに分泌期となって肥厚し、準備された子宮内膜に着床することによって成立する。以後の妊娠全期間を通じて子宮容積は著しく増大する(未産婦の2~3ミリリットルに対して妊娠末期には4000~5000ミリリットルになる)が、分娩後には復古する。しかし、子宮腟部は未産婦の場合は円錐(えんすい)形に近く、外子宮口は円形であるのに対し、経産婦では子宮腟部は円柱状か不整形で、外子宮口は横長となり、多少切れ目を伴うことが多い。
次におもな子宮の疾患について述べる。
[新井正夫]
正常とされる前傾前屈以外のものを子宮位置異常というが、そのうち治療の対象となるおもなものについて述べる。
(1)子宮後屈 正しくは子宮後傾後屈という。子宮体の軸が後屈するものを子宮後屈、子宮頸部の軸が後傾するものを子宮後傾といい、両者は合併してみられることが多い。子宮後屈だけで症状を伴う場合は子宮後屈症というが、ほとんどは無症状で、治療対象としては子宮後傾が重視されている。移動性と癒着性がある。移動性のものは性器の発育不全、内臓下垂のある無力性体質の婦人に多く、産褥(さんじょく)期の早期労働などが原因となるものもある。普通、これによる特別の症状はない。癒着性のものは卵巣、卵管、骨盤腹膜の炎症、あるいは子宮内膜症により子宮壁が癒着し、後方に引っ張られる結果おこるもので、下腹部痛や腰痛、月経痛、習慣性流産などの症状がみられる。原因疾患の治療を行い、改善されない場合は手術することもある。
(2)病的子宮前屈 子宮体の軸が強く前かがみになったもので、先天性子宮発育不全、月経異常、不妊を伴うものが多い。癒着したものは、後天的な子宮または周囲の炎症性疾患による。月経痛をはじめ、子宮体が膀胱を圧迫するために尿意が近くなる。根治的には手術が行われる。
(3)子宮脱 子宮脱垂症ともいう。子宮腟部が左右の大転子(大腿骨(だいたいこつ)頸の基部にある隆起)の高さより下にある場合は子宮下垂症で、子宮の下半部が腟入口の外に脱出したものを不完全子宮脱といい、子宮全体が脱出しているものを完全子宮脱という。大部分は子宮を保持する基靭帯や骨盤底筋群が分娩時に損傷することによっておこる。無症状のこともあるが、下腹部の重圧感や腟入口部の異物感、膀胱脱や直腸脱をかならず伴い、圧力性尿失禁を訴えるようになる。多産で、産褥時に過度の労働をした人に多い。更年期以後にみられる。なるべく早期に根治的手術を行う。
(4)子宮発育不全 位置異常ではないが、子宮の過度(病的)前屈や後屈を伴うことの多い疾患で、形態異常はないが正常より著しく小さい子宮をいう。しばしば外陰や腟の発育不全を伴う。大部分が先天性で、卵巣などの内分泌機能不全による。また、発育期に大病をしたり、栄養不良や過労などの身体的障害によって後天的にも発生する。こしけや月経異常がみられ、不妊あるいは妊娠しても流・早産をおこすことがある。主としてホルモン療法が行われる。
[新井正夫]
一般には月経とは無関係な不正子宮出血、すなわち無周期性で量や持続がきわめて不規則なものをいい、機能性、器質性、妊娠性などに分けられる。機能性子宮出血は妊娠や炎症・腫瘍・外傷など器質的な変化の認められない不正出血の場合に広くいわれるもので、排卵がおこらずに内膜が過度に増殖して出血する場合と、排卵のある女性におこる場合がある。診査掻爬(そうは)で内膜の状態を分析したのち、ホルモン療法が行われる。器質性子宮出血は子宮腟部びらん、頸管ポリープ、性器の炎症や腫瘍、とくに子宮癌、子宮筋腫、絨毛(じゅうもう)上皮腫などによるものをいう。妊娠性子宮出血は流産、子宮外妊娠、胞状奇胎などによるものである。これらのほかに、出血性素因、急性伝染病、心臓疾患、内分泌疾患など、全身性疾患の一部分症としてみられることもある。
[新井正夫]
子宮頸管粘膜が子宮口を越えて子宮腟部を覆う状態で、ただれ(糜爛(びらん))のようにみえるのでこの名がある。いわゆる子宮のただれで、大多数の正常成熟女性にみられ、それ自体にはなんらの危険性もないが、癌の初期の症状と類似しており、肉眼的には区別がつかないことがある。したがって定期の子宮癌精密検査をかならず受けるべきである。
[新井正夫]
細菌感染によっておこる子宮内膜の炎症で、膿(のう)性のこしけがあり、ときに下腹部痛や発熱もみられる。産褥時や流産時、人工妊娠中絶などの子宮内操作時、避妊器具の挿入時などが感染の機会となりやすい。急性では進行して卵管炎や腹膜炎などをおこす。産褥熱も急性子宮内膜炎の一つである。慢性では頸管部が侵され、上行して卵管に炎症がおこると不妊の原因になる。俗に子宮内膜炎という場合には子宮頸管粘膜の炎症をさす場合が多く、頸管炎とか頸管カタルと同じものと考えてよい。子宮体部粘膜は再生が強く、たとえ炎症があっても月経時に剥脱してしまうので、流産や出産、子宮内操作のあと以外に問題となることはない。早期に化学療法を徹底的に行う。
[新井正夫]
子宮内膜組織が、本来の場所である子宮腔内表面以外の部位で増殖する疾患をいう。特徴的症状は、月経の始まる前から月経第1日か2日ごろにもっとも強い月経痛がみられるもので、性交痛、不正出血、過多月経、不妊を伴うこともある。近年増加の傾向があり、女性の就労の問題とも関連するので注目されている疾患である。比較的若年女性では小骨盤腔臓器(ダグラス窩(か)、卵巣、腸壁など)が侵される型が多く、40歳以上では子宮腺(せん)筋腫が多い。妊娠が最良の治療法といわれるように、保存的には黄体ホルモンを主とした偽妊娠療法が行われるが、根治的には卵巣・子宮を摘除する。
[新井正夫]
子宮口から腔内にぶら下がるいぼ状の腫瘍で、米粒大からサクランボ大くらいまで大きさはまちまちである。いぼの茎の根が子宮頸管にある頸管ポリープと、根が子宮腔内にある子宮内膜ポリープとがある。頸管ポリープは慢性の頸管の炎症や裂傷の場合に発生して接触出血の原因となるし、感染をおこして膿性のこしけを伴うことがある。子宮内膜ポリープは子宮内膜の増殖によるもので、不正子宮出血をおこす。いずれも通常は良性腫瘍である。目に見えるものは鉗子(かんし)で除去する。子宮腔内のものは内膜全面掻爬で除去する。悪性のものもあるので、組織学的検査を行う。
[新井正夫]
雌性生殖腺(しせいせいしょくせん)付属器官である輸卵管の一部が膨大して、受精卵の維持および発育が行われるようになった部分のことである。哺乳(ほにゅう)類では、ミュラー管に由来する輸卵管が、発生の過程で、卵巣に近い部分から、輸卵管、子宮、腟(ちつ)といわれる生殖器官に分化する。子宮は元来左右1対の器官であるが、動物によりいろいろな程度に癒合していて、以下にあげる諸型に分類される。両側の子宮が癒合せず独立にある重複子宮(多くの齧歯(げっし)類、有袋類、ゾウなどの子宮)、外形的にはかなり癒合しているが内部は隔壁により二分されている中隔子宮(ハムスターなど齧歯類の一部、ブタやウシなどの子宮)、下半部のみ癒合している双角子宮(一部の食肉類、多くの有蹄(ゆうてい)類、クジラなどの子宮)、全体が癒合している単一子宮(霊長類の子宮)の4種である。
子宮は発情周期や月経周期、さらには妊娠など生殖機能発現に際して著しい発達と退行を可逆的に繰り返している。妊娠が成立するときは受精卵(胚(はい))が子宮の腔(こう)上皮細胞に接着すると、その部位の子宮内膜間質は肥大増殖し脱落膜を形成する。この脱落膜は胚の栄養芽層細胞とともに胎盤となり妊娠を維持する。胎盤は母体と胎児の間の栄養や老廃物の交換だけでなく、妊娠維持に必要な胎盤性生殖腺刺激ホルモン、胎盤性ペプチドホルモン、胎盤性ステロイドホルモンなどを分泌する内分泌器官にもなる。妊娠のおこらない通常の発情周期や月経周期においては、おもに発情ホルモンと黄体ホルモンの支配により子宮内膜組織が肥大増殖するが、霊長類では排卵に続く偽妊娠状態の終了とともに、増殖した組織が崩壊出血して月経がおこる。
鳥類、爬虫(はちゅう)類、両生類などにもミュラー管由来の輸卵管の一部が膨大した部位があり、そこを子宮とよぶ場合がある。これらのうち卵生のものでは卵殻(らんかく)を分泌する卵殻腺としての機能を果たしている場合もあるが、一般には産卵まで卵を貯留しておくのがおもな役目である。魚類の輸卵管はミュラー管に由来するものと、単に卵巣腔の伸長したものである場合の2通りがあるが、いずれにおいてもやはり子宮といわれる膨大部をもつ種がいる。
これら脊椎(せきつい)動物以外でも、卵生または卵胎生で体内受精をする無脊椎動物において、受精卵または初期胚が母体内にとどまる部分を子宮とよぶことがある。たとえば有爪(ゆうそう)類(カギムシなど)や線虫類(回虫など)では生殖孔と卵巣の間の管状部、吸虫類では卵形成腔と雌雄共同生殖孔との間の湾曲した太い管を子宮といい、条虫類(サナダムシなど)では卵巣と生殖孔を結ぶ管から枝分れした盲嚢(もうのう)を子宮あるいはとくに子宮鐘(しょう)とよぶが、これらも卵の貯蔵に役だっている。
[守 隆夫]
動物の雌にみられる器官。卵巣に発する卵管(生物学用語では輸卵管という)の末端が,卵や胚を貯留し,一定期間発生を継続せしめるために特殊な分化を遂げたもの。直接,または,腟を介して体外に連なる。一般に,腔腸動物以上の動物で,生殖法として胎生を行う動物でよく発達している。胎生は,胎盤形成のない卵胎生と,胎盤形成を伴う真胎生とに分けられる。狭義には真胎生のみを胎生という。胎盤を子宮以外の場所に形成する動物種もあるが,例外的である。単孔類を除くすべての哺乳類は真胎生を行い,高度に発達した子宮を有する。それらは,解剖学的な特徴から,(1)両側の子宮が完全に分離している重複子宮(有袋目,ウサギ目,多くの齧歯(げつし)目),(2)内部が隔壁によって二分されている中隔子宮(多くの偶蹄目,一部の齧歯目),(3)下半のみ合一している双角子宮(食虫目,多くの翼手目,有鱗目,一部の齧歯目,鯨目,食肉目,奇蹄目),(4)完全に合一している単一子宮(一部の翼手目,霊長目)に分類されるが,中隔子宮は双角子宮に含めることもある。哺乳類の子宮は,組織学的に外側から漿膜(しようまく),筋層,内膜の3層からなり,最内側に子宮腔を有する。内膜には結合組織性の間質のほか,子宮腺上皮,子宮腔上皮がある。筋層と内膜を構成する細胞は,卵巣ホルモンおよび一部の下垂体ホルモンの支配下にあり,性周期や生殖活動に伴い,著しい形態学的・生理学的変化を遂げる。霊長目では月経現象があり,子宮内膜が定期的に脱落し排除される。霊長目以外に,真の月経周期をもつ動物はない。
執筆者:舘 鄰
女性の骨盤の中央に位置し,やや前後に扁平な上下に長い楕円形ないし長方形の器官で,上が広く下が細い。成人では長さ7~8cm,幅4cm,厚さ3cmである。妊娠すると著しく大きくなる。上面を子宮底,上方の大きく丸みをおびた部分を子宮体,下方の細くなった部分を子宮頸という。上端の左右は卵管に,下方は腟に続く。子宮頸の下半部は腟に突出しており,子宮腟部と呼ぶ。子宮の壁は1~1.5cmの厚さがあり,内膜,筋層,漿膜の3層からなる。内膜は子宮体では周期変化をする。内膜の表面は単層円柱上皮に覆われ,その下に粘膜固有層がある。上皮から子宮腺がらせん状に固有層の中へ深く入りこんでおり,粘液を分泌する。固有層の上の方は機能層と呼ばれ,月経に際して上皮とともに剝脱する。下方は基底層と呼ばれ,月経に際して残り内膜の増殖にあずかる。筋層は厚い平滑筋の層で,おおざっぱに見れば子宮の長軸を輪状に取り巻くように走っているが,子宮が拡大しても裂けることがないよう,その走向は力学的に効果的なたすきがけの交差を示す。妊娠すると筋繊維は著しく大きくなるとともに,有糸分裂して数を増す。平滑筋の束の間に血管,リンパ管をともなう結合組織がある。漿膜は筋層の外を覆い,単層扁平上皮(腹膜上皮)とその下の漿膜下結合組織からなる。
子宮頸の構造も子宮体とほぼ同じであるが,内膜は周期変化しない。また上皮から子宮頸腺が粘膜固有層に向かって出ており,アルカリ性の粘液を分泌する。精子が進むのに,アルカリ性は好環境となっている。子宮腟部の外面は,腟と同じように角化しない重層扁平上皮からなっている。
子宮は,胎生期に左右のミュラー管が癒合して形成される臓器であるが,この癒合がなんらかの原因で障害されると,双頭双角子宮など各種の奇形が生ずる。子宮は生理的には小骨盤腔のほぼ中央に位置し,前傾前屈の位置をとっているのが普通であるが,位置異常として子宮が病的に後転する子宮後屈症,子宮が全体として前後左右に位置を変える子宮転位,また子宮が上下方向へ移動する子宮上昇や子宮脱などがある。子宮体内膜の炎症には急性子宮内膜炎があり,連鎖球菌,淋菌,大腸菌などが原因菌となり,分娩,流産,人工妊娠中絶,IUDなどが誘因となる。炎症が進行し,子宮筋層へ及ぶと子宮筋層内膜炎となり,症状はいっそう強くなる。このほか特殊なものに結核性子宮内膜炎,老人性子宮内膜炎などがある。一方,子宮頸にみられる炎症として重要なものに子宮頸内膜炎がある。原因菌は淋菌,ブドウ球菌,大腸菌などで,人工および自然流産,分娩時の頸管損傷などが誘因となる。子宮頸部に起こりがちな良性疾患として,子宮腟部糜爛(びらん)と子宮頸管粘膜ポリープがある。前者は重層扁平上皮で覆われるべきところが円柱上皮で覆われ,粘膜下の血管網が透見されて鮮紅色にみえるために糜爛と呼ばれているが,実際は偽糜爛である。しばしば癌性糜爛との区別が問題となる。後者は頸管粘膜の限局性増殖であり,ときに帯下や出血の原因となるが,大部分は良性である。子宮の萎縮には老化に伴う生理的なものや去勢(卵巣の摘出)などによる病的萎縮がある。逆に子宮が瀰漫(びまん)性に肥大した場合は,子宮筋層増殖症と呼ばれる。またホルモンの過剰により子宮内膜が著しく肥厚する子宮内膜増殖症があるが,それらのうちには内膜癌の前癌病変として論議されているものもある。子宮内膜の異所的増殖症として,子宮筋層内に増殖する外性子宮内膜症が挙げられる。子宮の損傷には分娩時に合併しやすい頸管裂傷や子宮破裂があり,一方,人工妊娠中絶術などの際に起こる子宮穿孔(せんこう)がある。子宮にみられる腫瘍のうち良性のものとして子宮筋腫が挙げられる。子宮は筋腫結節のため著しく増大する。筋腫結節の存在部位により漿膜下・壁内・粘膜下筋腫などと区別される。卵胞ホルモンがその発育に影響を与えるとされている。悪性腫瘍の代表には子宮頸癌と子宮体癌(内膜癌)がある。
執筆者:藤田 尚男+塚原 嘉治
アリストテレスは,子宮は二またに分かれて,フォーク状に左右に伸びているとし,この部分をヒュステラhysteraまたはデルフュスdelphysと呼んだ。多くの哺乳類が重複子宮,中隔子宮,双角子宮であり,ヒトを含む霊長類の単一子宮も卵管を含めれば相似の形をしているからである。また腟への開口部に向かう管状の部分はメトラmētraといった(《動物誌》)。メトラには母matērの意も含まれており,胎児をはぐくむ機能を含ませている点で,子の住いとしての〈子宮〉よりも語として的確ではないだろうか。なお,アポロンの神託で名高いデルフォイは,その地形(大地の割れ目,地下に通じる穴)により名をデルフュスから得ているとして,子宮と当地の神託の性格とを関連づける説もある。
飽くことを知らぬものとして,陰府(よみ)や火などとともに不妊の子宮が挙げられるが(旧約聖書《箴言》30:16),プラトンも,長く子を得ないと,子宮は苦しんで五体をさまよい,呼吸をとめて全身を苦悩の頂点に陥れ,あらゆる病を引き起こすと述べている(《ティマイオス》)。ギリシア語のヒュステラに由来するヒステリーという語の原義はこのような事態であり,J.M.シャルコーが男のヒステリーを語るまで,ヒステリーはもっぱら女性の病とされてきた。ヒッポクラテスはヒステリーにくしゃみが有効であるという。また彼は,子宮が冷たいと不妊,水っぽいと精液がおぼれるから不妊,乾燥していて熱いと精液が栄養不足で死んで不妊などと論じている(《箴言》)。
サンスクリットのud(〈上方〉の意)の比較級uttara-は,上の部分または突出した部分を指し,これがギリシア語のヒュステラまたはヒュステロスhysterosとなる一方,ラテン語ウテルスuterusに通じている。ウテルスは大プリニウスによれば人間の場合だけ子宮を指すが,その他の動物の子宮はウォルウァvolvaまたはウルウァvulvaと呼んでいる(《博物誌》)。彼はイヌやクジラの胎児,ハクチョウの下腹をウテルスという(同上)し,オウィディウスの《転身物語》でもウテルスは腹の意である。また,マルティアリスはブタの子宮にウォルウァの語を用いている。ケルススの《医学について》でも,ウテルスは胎児や下腹部の意に用い,子宮の解剖学や疾患を論ずる際には必ずウルウァといっている。ウルウァは陰門の意となって残っているが(英語vulva,フランス語vulveなど),内性器を示すウルウァがいつから外性器を表現するようになったのか不明である。日本でも江戸時代の軟文学などに女性外性器を子宮(こぶくろ)と呼ぶ例があるが,同様の混同がラテン語にも起こったのかもしれない。
最も大きな子宮はヒンドゥー教の《ビシュヌ・プラーナ》に述べられているもので,ビシュヌの住む卵を抱く,須弥山(しゆみせん)ほどの大きさをもつ子宮である。一方,ラクタンティウスは《神学大系》の中で,両性具有の神が,子宮の中ではなく心の中に抱いた言葉を口にしたと述べ,キリスト教の神にも子宮があることを示唆した。エジプトに広く伝わる最も強力な護符は,女神イシスの子宮をその靱帯や腟とともにかたどったものとされる。子宮を臓器とする説は多いが,安藤昌益のように腎の前,肝の下,大腸の後ろの空間が子宮で,形はないとする考えもあった(《統道真伝》)。パラケルススは3種の子宮を説く。神の霊によって天と地とアダムを生んだ水,イブを生んだアダム,そしてアダムから生まれ,あらゆる人間の子宮となり,神の霊も宿した女の3種である(《オプス・パラミルム》)。これが単なる比喩ではないのが彼の思想の特徴である。
なお,子宮と墓のイメージ連合に基づく修辞は,多くの文学作品に見られるものだが,英語ではwombとtombで語形と音が似ているため,シェークスピアをはじめ多くの例がある。
執筆者:池澤 康郎
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…狭義には真胎生のみを胎生という。胎盤を子宮以外の場所に形成する動物種もあるが,例外的である。単孔類を除くすべての哺乳類は真胎生を行い,高度に発達した子宮を有する。…
…妊娠・分娩によってもたらされた母体の諸変化が,分娩の終了から非妊正常状態に復元するまでの,6~8週間の期間を産褥または産褥期といい,産褥にある婦人を褥婦puerperantという。この期間は子宮復古,乳汁分泌,内分泌機能などの著しい変化を伴い,心理的にも不安定で,産褥ノイローゼ,精神病が起こりやすい。 子宮復古とは産褥期における子宮の急速な縮小のことで,分娩後の子宮収縮である後陣痛によって復古が促進される。…
…すなわち男性では睾丸(精巣)で作られた精子が副睾丸(精巣上体)から精管を経て尿道に運ばれるが,付属腺として精囊や前立腺などがあり,交接器として陰茎がある。女性では卵巣とそこで作られた卵子を運ぶ卵管と,受精卵を育てる子宮,交接器としての腟などがおもな性器である。 このように,また,いうまでもなく,性器は男女で著しい性差を示すが,一般に性腺自身の特徴を一次性徴といい,それ以外の性別を示す特徴を二次性徴という。…
…胎生の魚類などでも,胎盤あるいは類似の組織で胚が母体とつながっている場合には妊娠と呼ばれる。哺乳類では,妊娠は,受精卵が発生しはじめ,胚盤胞の状態で子宮壁に着床したときから始まり,出産のときに終わる。胚と母体とを連絡している組織を胎盤といい,母体側に由来するものを母性胎盤,胚由来のものを胎児性胎盤という。…
…腹をさす英語bellyは〈皮袋〉の意の古代英語beliġ,bæliġや,古代スカンジナビア語belgrなどに由来しており,原義は〈物を蓄える袋〉である。一方,腹は子を宿す場所=子宮であり,英語wombも,英語,ラテン語uterusも腹の意をもち,後者はサンスクリットのudaram(腹)につながる。日本でも〈腹違い〉〈嫁の腹から孫が出る〉などという。…
…古代から注目された神経症的表現であり,すでにヒッポクラテスは本症について正確な症状記載を行っている。英語hysteria,ドイツ語Hysterie,フランス語hystérieなどの語源は古代ギリシア語のhysteraすなわち〈子宮〉である。前5~前4世紀ごろの古代ギリシア人は,子宮が体内を動きまわるためにヒステリーが起こると考えた。…
※「子宮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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