日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
レイ(Jean Ray)
れい
Jean Ray
(1887―1964)
フランス語で書くベルギーの幻想・怪奇小説家。本名はRaymundus Johannes Maria de Kremer。ゲントの海員の家に生まれる。15歳でロンドン行きの船に乗り組み、1年後ゲントに戻って大学などに通った。ふたたび海員の生活に返ったが、仕事のかたわら小説も書き始めた。1929年、陸上に帰り、ジャーナリストをしながら文筆生活に入った。処女作は25年発表の『パウケンシュラーガー博士の異常な研究』Les étranges études du Docteur Paukenschlager(のちに短編集『ウィスキーのコント集』Les contes de whiskyに所収)で、幻想奇談的色彩が濃い。以来、代表作の長編小説『マルペルテュイ』(1943)をはじめ『幽霊の書』(1947)、『新カンタベリー物語』Les Derniers contes de Canterbury(1944)などでも、いわゆる異次元テーマ、別世界テーマなど怪奇・SF的要素が強い。60年代以降、再評価の声が高まった。また、ジョン・フランダースの名でドイツ、オランダ、ベルギーの怪奇幻想小説を編集する一方、オカルト性、幻想性の強い探偵小説連作『ハリー・ディクソン・シリーズ』Harry Dicksonがある。
[榊原晃三]
『篠田知和基訳『マルペルテュイ』(1979・月刊ペン社)』▽『秋山和夫訳『幽霊の書』(1979・国書刊行会)』