一方(読み)いっぽう

精選版 日本国語大辞典 「一方」の意味・読み・例文・類語

いっ‐ぽう ‥パウ【一方】

[1] 〘名〙
一つ方向。一つの方面。ある方向。ある方面。
文華秀麗集(818)中・奉和王昭君〈菅原清公〉「御狄寧無計微躯鎮一方
※平治(1220頃か)上「いかなる御大事をも承りて、一方はかため申さん」 〔詩経‐秦風・蒹葭〕
② 二つまたは二つ以上あるもののうちの一つ。副詞的にも用いる。
平家(13C前)四「車の二つの輪に似たり。一方欠けんにおいては、いかでその歎きなからんや」
※地獄変(1918)〈芥川龍之介〉一二「所が一方良秀がこのやうに、〈略〉夢中になって、屏風の絵を描いて居ります中に、又一方ではあの娘が、何故かだんだん気鬱になって」
小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉下「賤しげなるものを高尚なるもののやうにいひなすなんども笑を博すべき一方(イッパウ)なり」
衝重(ついがさね)の一方にだけ穴が彫ってあるもの。五位の人の用いるものという。〔調度口伝(古事類苑・器用三)〕
⑤ 一分銀(いちぶぎん)別称。その形が長方形であったところから、漢学者などが戯れに呼んだ語。
⑥ (接尾語的に用いられる) 物事が、もっぱら一つの方向、方面にかたよっていること。そればかり。一途(いちず)
(イ) 体言に付く場合。
※諷誡京わらんべ(1886)〈坪内逍遙〉一「うまれつき学問好にて、修学一方(パウ)に熱心なるから」
(ロ) 用言に付く場合。
野心(1902)〈永井荷風〉二「質粗を主として手堅い一方を以て得意として来た保守的な此の家風を」
⑦ (接続助詞のように用いる) ある事と並行して他のことが行なわれることを示す。
※若き日(1943)〈広津和郎〉二「黒川社長は社会の一部から恐怖の眼をもって見られてゐる一方、部下に向ってはこんな風な親分的な寛大を示す人らしい」
[2] 〘接続〙 ある事についての話を中止して、筋に関係のあるもう一つの事を話し始めることを示す。話かわってこちらについて言えば。
竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生と虚空「竹沢と云ふ名前すら知らない者の多い世間に、一方そんな熱心な篤志家が一人でもゐると思ふ事は」

ひと‐かた【一方】

〘名〙
① (形動) 一つの方向。一方面。また、一つの方向にかたよることやそのさま。
※書紀(720)崇神四八年正月(熱田本訓)「兄は一片(ヒトカタ)に東(あつま)に向(ゆ)きて」
② 一か所にかたよること。ひとところ。
※別本源氏(1001‐14頃)宿木「ただ人こそ、ひとかたに定まりぬれば」
③ (形動) 普通であること。また、そのさま。一通り。
※源氏(1001‐14頃)須磨「しらさりしおほうみのはらにながれきてひとかたにやはものはかなしき」
④ (「かた」は接尾語) 一人をうやまっていう語。
※蜻蛉(974頃)上「いまひとかたも、れいはたちさらぬ心ちに、今日ぞみえぬ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「一方」の意味・読み・例文・類語

ひと‐かた【一方】

[名]
一人ひとり」を敬っていう語。「もうお一方お乗りになれます」
いっぽうの人。片方。
「今―の御心乱れまさるに」〈浜松・二〉
[形動][文][ナリ]
程度が普通であるさま。一とおり。多くあとに、打消しの表現を伴う。「悲しみようは一方ではない」
一つの方向にかたよるさま。一方的。
「―に思ひとりにし心にはなほそむかるる身をいかにせむ」〈新古今・雑下〉
[補説]人数を表す場合は「お」を付けて使う。また、この言い方ができるのは「お一方」「お二方」「お三方」のみで、四人以上には使わない。
[類語]1尋常一様尋常一様ひと通りありきたり普通一般一般的通常平常標準標準的平均的通例正常当たり前並大抵ノーマルスタンダードレギュラー

いっ‐ぽう〔‐パウ〕【一方】

[名]
一つの方面。一つの方向。「一方が海に面する町」「一方交通」
二つあるうちの一つ。片方。「一方の足に体重をかける」「一方の意見だけでは決められない」
(副助詞的に用いて)もっぱらその方向・方面にかたよること。…するばかり。だけ。「太る一方」「蓄える一方の人」
(接続助詞的に用いて)…する反面。…と同時に。「根気強い一方、短気なところもある」
[接]関連するもう一つのほうについて言うと。話かわって。「君は渡したという。一方、彼は受け取っていないという」
片方[用法]
[類語]片方片一方片割れ他方一面半面他面側面片側片面片端一端一半一環片鱗一面的一方的サイド

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の一方の言及

【当道】より

…さらに,仁明天皇の皇子で盲人の人康(さねやす)親王を祖と仰ぐなどの権威づけを行い,治外法権的性格を持つに至った。それとともに内部に派別も生じ,その名による一方(いちかた)と城方(じようかた)の別以外に,妙観,妙聞(門),師堂(志道),源照(玄正),戸島,大山などのいわゆる当道6派の別も生じた。室町末期には,その座務が奈良と大津坂本に分かれて行われることもあり,また,天文(1532‐55)ころには,〈本所〉ないし〈管領〉と称する後援者の支配権をめぐって,本座と新座の抗争も起こったが,両者の和解後は久我(こが)家が名目的本所となった。…

【盲人】より

…この平曲の座は天夜尊(あまよのみこと)(仁明あるいは光孝天皇の皇子人康(さねやす)親王ともいう)を祖神とする由来を伝え,祖神にちなむ2月16日の積塔(しやくとう),6月19日の涼(すずみ)の塔に参集して祭祀を執行した。座内には総検校以下検校(けんぎよう),勾当(こうとう),座頭(ざとう)の階級があり,座衆は師匠の系譜によって一方(いちかた),城方(じようかた)の平曲2流に分かれていた。権門を本所(ほんじよ)として祭事を奉仕し,その裁判権に隷従するのは他の諸芸能の座と同様であるが,本所の庇護と座衆の強い結束によって彼らは諸国往来の自由を獲得し平曲上演の縄張を広げ,室町時代に平曲は最盛期を迎えた。…

※「一方」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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