デジタル大辞泉 「内部通報制度」の意味・読み・例文・類語 ないぶつうほう‐せいど【内部通報制度】 企業などの組織において、法令や倫理規定に違反する行為の発生、あるいはそのおそれがある場合に、それを察知した人が、通常の方法では報告できないときに、適切に対応できる専門窓口に直接通報できる制度。 出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
知恵蔵 「内部通報制度」の解説 内部通報制度 企業や団体等の組織において、法令違反や規則違反、不正行為が行われている事実もしくはその恐れがあることを知った社員・職員、内部の事情を知る関係者などからの通報を受け、組織内でこれを適切に処理する仕組みのこと。消費者庁から「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン(内部通報ガイドライン)」が示され、上場企業の大多数は内部通報制度を設けているが、実際の通報件数は極めて少なく制度運用に課題が残されている。 2004年に定められた「公益通報者保護法」は、公益通報者に対する不利益な扱いを無効とすることなどを法の内容とする。これに定める公益通報とは、所管の行政機関などに通報することである。これを「内部通報ガイドライン」では内部通報にも拡大し、通報窓口の整備や通報者の保護を求めている。組織内部の違反や不正に関して、その組織に属する者が行政・司法機関やマスメディア、消費者団体などに通報・告発すること一般を内部告発という。たとえ組織内部に対して行われる通報であっても、通常の指揮系統にある上司よりも上席の役職者や別部署の監査部門などに対して行われるため、これも内部告発の一種といえる。しかし、内部告発には、「内部」の人物が事案を組織内部にとどめ置かず、「外部」に向けて告発するという語感や通念がある。このことなどから、内部通報を用語として内部告発とは別に扱い、組織が設置した窓口などに、その組織内での違反や不正について通報や相談、照会などすることを特に内部通報という。なお、通報者は組織内の人物に限定せず、取引先関係者や一般市民などからであっても内部通報に含める。通報窓口は企業内部の事案について通報するために開かれているが、公平性や客観性を担保するため、同一企業内の部署とは限らずグループ企業全体を担当する機関を設けたり、通報者の匿名性を確保するために社外の法律事務所や専門機関に委託する「外部窓口」を設けたりすることも多い。金融庁と東京証券取引所がまとめた「コーポレートガバナンスコード」でも、企業の内部通報の体制整備を求めている。 内部告発で違反や不正が外部に発覚する前に、内部通報で察知し自発的、能動的に対処すれば、企業がその事案によって受けるダメージは少なくなる。早期に事案解決に向けた主体的な動きが取れると共に、組織内でリスク管理が有効に機能し企業統治が適切に行われていたと評価され、社会的責任や信頼の保全に寄与したり社会的な批判や非難を一定程度軽減したりできるからである。こうしたことから、「コンプライアンス・ホットライン」などの名称で、各企業で通報窓口やそれを調査・是正する制度や部門を設けている。監査法人デトロイトトーマツ傘下のリスク管理会社が18年に上場企業など330社に行った調査によると、ほとんどすべての企業が窓口を設置していた。しかし、直近1年で不正の告発を受信していないケースが8割にも上り、通報の多くは個人的な不満の表明に終始していることが示された。18年のKYB免震装置の検査データ偽装では、内部通報によって長期にわたるデータの不正が明らかになった。しかし、不正の常態化が社員の間で知れ渡っていても、内部通報は行われていなかった例も少なくない。その背景として、内部通報が長期にわたってたなざらしにされていたり、内部通報者に報復人事を行ったりするケースが指摘される。こうした企業風土にあっては内部通報の形骸化は避けられず、活発な通報は損なわれる。このため、内部通報制度の制度設計や法整備などについて、見直しを求める意見が出てきている。 (金谷俊秀 ライター/2018年) 出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報