精選版 日本国語大辞典 「組織」の意味・読み・例文・類語
そ‐しき【組織】
そ‐しょく【組織】
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
翻訳|tissue
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
生物における細胞集団。多細胞生物においては発生が進むにしたがい細胞が形態的・機能的に分化する。これらの細胞は雑然と混合しているのではなく,多くは同じ種類の細胞が集合し,一定の配列をなしている。このように1種類または数種類の細胞からなる有機的細胞集団を組織という。tissueの語はラテン語texere由来のフランス語tissuから派生したもので,織物の意味。あたかも多数の緯糸・経糸からなる織物のように,組織をつくる細胞間には有機的な連絡がある。たとえば,心臓の筋細胞が同調して収縮し,全体として統御された拍動が起こるのも細胞間の連絡があることによる。心臓は心筋,血管,神経などの組織からなる器官であり,それらの組織が一定の秩序をもって結合し,一定の機能を果たしている。
組織を研究対象とする生物学の分野を組織学という。細胞学がおもに細胞の一般性や細胞内部の問題に注目するのに対し,組織学においては相互に有機的関連をもつ細胞間の結合様式,さらに組織相互の関係が研究される。光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いる形態学的な方法にかぎらず,生理学的また生物化学的な方法を用いて多角的に研究される。また,個体から取り出した組織片をそのまま調べる従来からの方法だけでなく,近年は組織片や細胞群をガラス器内で培養する組織培養法が発達した。組織培養した細胞により薬物の作用を研究したり,抗体や一定の物質を製造することも盛んに行われている。未分化細胞から特定の形態と機能をもった組織が分化する過程(組織分化または組織発生)の研究にも,組織培養法は有力な手段として利用されている。
動物の組織は形態と機能から,上皮組織,結合組織,軟骨組織,骨組織,血液とリンパ,筋組織(きんそしき),神経組織に分けられる。また,発生学的に上記の結合組織から血液とリンパまでの5組織はすべて間充織(間葉組織)に由来する。これら5組織をまとめて支持組織とよぶこともある。しかし,組織の分類は便宜的なものであり,たとえば,発生学的には神経組織も神経管をつくる上皮に由来し,その意味では上皮組織だが,発生の進行にしたがい複雑になり,上皮の形態学的特徴をまったく失う。
上皮組織は内胚葉,中胚葉または外胚葉に由来し,体表面,管腔(消化管,呼吸器,泌尿生殖器系の管系など),体腔(腹膜腔,胸膜腔,心膜腔)などの表面を1~数層の細胞ですきまなく覆っている。隣り合う細胞は密着し,細胞間質が介在しないのがふつうである。このような細胞層を上皮という。電子顕微鏡でみると,上皮細胞間の接着は,接着複合体とよぶ異なる一定の構造の組合せからなっている。上皮組織はときに上皮の自由表面から陥入し,分泌細胞群をつくる。このようにして生じた腺組織は上皮の特徴を示している場合が多い。特殊な分化をした上皮もあり,視覚,聴覚,平衡覚にあずかるものや,毛,つめ,水晶体のような特異的な物理学的性質を獲得したものがその例である。上皮の下には一般に結合組織があり,境界に基底膜がある。
支持組織は細胞間質に富み,細胞がそれに埋もれたように散在する骨,軟骨,結合組織などは,体や器官の形を保つ枠組として働いている。細胞間質は繊維と基質とからなる。発生初期に内・外胚葉のあいだに落ち込んだ細胞から生ずる組織で,まばらな網状につながりあった構造をもつ。血液とリンパを支持組織のなかに加えることがあるのは,血漿(けつしよう)(リンパ漿)を基質,血液凝固時に生ずるフィブリンを繊維とみなすことができるのが理由とされる。結合組織は,皮膚や粘膜の下,神経,血管,腺の周囲などに広く分布している。繊維は,コラーゲン繊維(膠原(こうげん)繊維),細網繊維,弾性繊維からなるが,コラーゲン繊維の量が最も多い。基質はいわゆる酸性ムコ多糖類が主である。軟骨組織は骨とともに骨格系をつくる。張力よりも圧力に対して優れた抵抗力を示し,とくにガラス軟骨は1cm2当り150kgの圧縮力に耐える。軟骨細胞と細胞間質からなり,細胞間質の成分の違いによりガラス軟骨,繊維軟骨,弾性軟骨に分けられる。骨はカルシウム塩を多量に含む細胞間質と,突起でつながり合う骨細胞からなる。硬さは大きいが,曲げに対してはたわむ能力が小さく,折れやすい。皮膚の密性結合組織内に骨組織がつくられる現象を膜内骨化といい(例,頭蓋骨),あらかじめできていた軟骨のモデル上に骨化が進むのを軟骨内骨化(例,脊椎骨)という。
筋組織は収縮運動を目的として分化した筋細胞からなる。筋細胞は全体として細長い繊維状の外形をとるので,筋繊維とよばれる。筋肉は形態から横紋筋と平滑筋に分けられ,横紋筋は一般に強力で迅速な収縮と緊張を行い,平滑筋はゆるやかな収縮と緊張にあずかる。ほとんどの筋肉は,広い意味での中胚葉(筋板と間充織)由来だが,筋上皮細胞は外胚葉から生ずる。
神経組織は神経細胞(ニューロン)とグリア細胞(神経膠細胞)からなり,生体情報の有線的伝達にあずかる。高等動物では,脳と脊髄を中枢神経系,これらより外に出ているものを末梢神経系という。中枢神経系では神経組織に血管とそれにともなう結合組織が加わっていて,神経細胞体の多く存在する部位を灰白質,神経繊維の多い部位を白質とよぶ。グリア細胞はどちらの部位にも多数存在し,神経細胞の機能を支持する。末梢神経系は神経細胞と,グリア細胞に相当するシュワン細胞および外套(がいとう)細胞が主成分で,血管をともなう結合組織がとりまいている。神経細胞は一生の早い時期に細胞分裂を行い,成体では分裂能力をもたないが,グリア細胞は動物の一生を通じて分裂能力を維持している。
執筆者:川島 誠一郎
植物のうち藻類にも茎的,根的,葉的な部分をもつものもあるが,これらでは組織とよぶべきまとまりは発達していない。維管束植物の器官はいくつかの組織の集りでつくられているが,組織系の分類については,ザックスJ.von Sachsは表皮系,基本組織系,維管束系を区別し,ファン・ティーゲムP.E.L.van Tieghemは表皮,皮層,中心柱の区分を認めた。これらの形態的分類に対し,ハーバーラントG.Haberlandtは生理的機能に注目して,皮層組織,機械組織,吸収組織,同化組織,通道組織,貯蔵組織,通気組織,分泌組織,運動組織,感覚組織,刺激伝達組織の11の系を識別した。
植物では,茎頂,根端,形成層など,つねに活発に細胞分裂を行う分裂組織と,すでに分裂能を失った永久組織とがある。永久組織のうちでは,柔組織や厚角組織,厚壁組織(繊維組織を含む)などが典型的なもので,種子植物の葉の柔組織に柵状組織と海綿状組織の分化がみられるなど,形態的にも機能的にも多様な組織の分化がみられる。組織そのものではないが,組織の間にあって重要な形態的単位として細胞間隙(かんげき)がある。
執筆者:岩槻 邦男
組織とは,企業体,学校,労働組合などのように,2人以上の人々が共通の目標達成をめざしながら分化した役割を担い,統一的な意志のもとに継続している協働動行為の体系と定義することができる。すなわち,分化した機能をもつ複数の要素が,一定の原理や秩序のもとに一つの有意義な全体となっているものの意であるから,広義には,動物や植物の場合にもひとつひとつの細胞が集まって成り立つ場合,細胞組織とか人体組織というように用いられる。組織は個人なしには存在しえず,単なる個人の総和以上のものである。組織は個人のパーソナリティに注目しただけでは解明できない固有の現象や特性を示す。
組織を理解するためには,(1)組織の形成と維持,(2)組織内の行為過程と組織の構造,(3)組織の両義性,という視点がたいせつであろう。以下にこれを詳述すると,(1)人間が組織を形成する基本的な理由は,組織が複数の人々の主体性を結合することをとおして,各人が分散している場合の単純総和以上の拡大された主体性をつくりだすことにある。この拡大された主体性に基づいてより高度の欲求充足が可能になるから,人々は組織に参加するのである。言い換えると,組織は人々に参加への誘因を提供する。組織への参加者を組織の成員という。組織が存続するためには,目標の達成,成員の欲求の充足,成員の貢献の確保,協働のための諸手段の確保といった課題が,社会的環境の課す制約の中で,たえず充足され続けねばならない。これらの条件が充足されないと組織は解体する。(2)これらの条件を継続的に充足するためには,組織内の各成員の意志と行為がたえず調整され整合的に連結され続けねばならない。そのような調整と連結の媒介として,組織には規範と統率者が存在する。統率者を中心にして他の成員との間には放射状のコミュニケーション回路が形成され,それをとおしての指示と報告の授受によって,成員の主体性が連結される。組織の最も単純な形は1人の統率者が若干名の他の成員を統率する単位組織である。複数の単位組織が集まりそれらを統率するさらに上位の統率者が出現すると,複合組織が形成される。このような統率者を何段階も重層化していくと,成員数が数十万人というような巨大組織の形成も可能となる。組織がピラミッド状の構造をとる基本的理由は,このように多数の成員の整合的連結のための統率者の段階化にある。(3)組織は〈協働の体系〉であると同時に〈支配の体系〉でもあるという両義的な性格をもっている。組織が大規模化するほど成員は複数の階層に分化するとともに,階層間の受益格差や意志決定権の格差が広がる傾向があり,さらには階層間の対立も発生しやすくなる。そして統率者が特権的な受益を享受し意志決定権を集中的に掌握するようになると,統率者は支配者という性格をも帯びるようになる。同時に規範も,協働を可能にするための調整手段という性格に加えて,個人に対して拘束や禁欲を課すという両義性をもつものとなる。組織における疎外の問題を考えるにあたっては,〈支配の体系〉という性格への注目がたいせつである。
組織は,その規模,社会の中で果たしている機能,統率者や規範の決定のされ方,制裁の種類,成員の資格,経済的基盤等のさまざまな観点から多様な類型に分類することが可能である。経営学的関心からは組織の目標達成と成員の欲求充足をいかに高度化するか,そのためにいかにして成員や部局を整合化したらよいかということが,運動論的関心からは労働運動や住民運動の中でどのようにして運動を組織化し,要求実現を達成したらよいかということが,疎外論的な関心からは組織が人間にとって抑圧的・拘束的なものになる場合,それはいかなるメカニズムをとおしてなのか,その克服の道は何なのかということが,問われてきたのである。
執筆者:船橋 晴俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
字通「組」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
…生物体の構造の基本的,一般的な形式のこと。生物体の構造には,系統分岐とともに生じた千態万様の多様性がある。それらの解析に基づいて生物界はまず菌,植物,動物の3界に分けられる。次にそれぞれの群をやや小さい群(門)に分け,さらにその各群をもっと小さい群(綱,目など)に順次に分けることができる。このようにして生物の種はピラミッド状の体系つまり分類体系に整理される。分類学はこうした解析の作業を中心として成り立っているが,ここで第1に着目されるのが種々の段階にある体制である。…
…社会への影響力を強めつつある企業の行動を研究対象とする学問分野。資本主義経済のもとでの一般的な企業は,私的営利を目的として経済活動を営む組織体であるが,経営学はその企業行動を組織体の活動として分析するところに,その認識上の特徴がある。経済活動を営む組織体には,直接に営利を目的としていない公企業や公共事業体,協同組合等々もあるが,これらの行う経済活動も,それを組織体の活動として認識したときには経営学の研究対象となりうる。…
…多細胞生物のからだの中で,1種ないし多種の組織から成り,どの個体にも共通する一定の形態・構造と機能をもつ部分のこと。動物体についていえば,例えばヒトの犬歯は象牙質,エナメル質,セメント質,歯髄などいくつかの組織から成る1個の器官である。…
…解剖学の中の一分野。特定の構造と機能をもった細胞どうしが目的に応じて集合し,機能上,構造上の合目的性をもった一つの有機体を形成したものを組織といい,この組織という材質の組合せとして生体を研究する学問が組織学である。これに対して,生体を器官という部品からなりたつ構造として,その微小な構築まで研究していく学問は,顕微解剖学microscopic anatomyとよばれる。…
※「組織」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
3/11 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
2/13 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
1/12 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
12/11 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/10 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新