日本大百科全書(ニッポニカ) 「労役婚」の意味・わかりやすい解説
労役婚
ろうえきこん
婚姻に際して、花婿が花嫁の両親に一定期間労役奉仕を行う慣行。花婿奉仕、花婿労役奉仕などとよばれることもある。この慣行は、婚姻に際して、花婿側の親族が花嫁側の親族に財貨を贈るという花嫁代償の慣行に準ずるものと考えられている。すなわち、財貨のかわりに労役奉仕という形で、花嫁を養育した両親に対する慰謝料や、花嫁の性、出産、家事、食料生産などの労働力の移譲や、将来生まれてくる子供に対する権利の移譲に関する代償を支払うものであると解されている。実際、花婿が正規の花嫁代償を支払えず、かわりに労役奉仕を行って、花嫁を獲得する場合もしばしばみられる。花婿の労役奉仕が婚姻以前から行われることもあり、この場合には、花嫁の両親が花婿の労働能力を試し、花婿としてふさわしいかどうかをみる試験期間としての意味合いをもつ。労役婚の場合、婚姻に伴う居住規制は、労役奉仕期間中は妻方(つまかた)居住、労役奉仕期間終了後は夫方(おつとかた)居住となることが多い。
[栗田博之]