日本大百科全書(ニッポニカ)「親族」の解説
親族
しんぞく
kins and affines
出生と婚姻により生ずる系譜的紐帯(ちゅうたい)、およびそれに類する擬制的関係によって結ばれた人々をさす。親子関係の連続としてたどることができる血縁者kinsや、配偶者、配偶者の血縁者、血縁者の配偶者などの姻縁関係者affinesが含まれる。ただし、出生といい婚姻といっても、それはけっして生物学的な事実をさしているわけではなく、社会的に認められた事実をさしていることに注意せねばならない。
[濱本 満]
親族と非親族
親族と認定される範囲は社会ごとにかならずしも一様ではない。単系出自を認めている社会、たとえば父系社会では、系譜的紐帯のうち男性のみを通じての関係に重点が置かれ、何世代にもさかのぼって親族関係が認知される。共通の出自の信仰のみで実際には正確な系譜がたどれない氏族成員までもが親族とみなされる。これに対し、女性を通じての紐帯がたどられる範囲は、はるかに小さい。日本では、法的には(1)6親等内の血族、(2)配偶者、(3)3親等内の姻族、が親族と認められている(後述)。
個々人にとっての親族は、集団ではなく、むしろ境界のぼやけた範疇(はんちゅう)であることが普通で、その範囲は、実際の社会的つきあいの有無、権利の主張や義務の履行などの要因によっても大きく影響を受ける。
親族関係が日常生活で重要な社会では、親族関係が終わるところは、また無条件に友好関係を期待できる世界が終わるところでもあり、非親族は極端にいえば潜在的な敵ともみなされている。一つの共同体の成員が全員なんらかの形で互いに親族であるような社会も多く、そのような社会では、かりに共同体内に非親族成員がいたとしても、結婚や擬制的紐帯を通じて、急速に同化されてゆく。
[濱本 満]
親族関係
親族を一般に特徴づけるのは、協力と友好の関係であるが、詳しくみると、特定の親族紐帯に固有の意味が与えられ、特定の権利・義務や行動様式が伴っているのが普通である。これらも、社会ごとに、けっして一様ではない。たとえば、母系のトロブリアンド島民の間では、父は血縁者というよりも、母の夫として、姻縁関係者に近いとらえられ方をしている。そこでは、父系社会で父がもっているような権威を行使するのは、母方のおじである。
特定の親族に対して、制度化された態度や行動の様式がしばしばみられる。義理の母親に対して広くみられる忌避の関係も、その一例である。たとえば、アフリカの民族集団バガンダの社会では、男は義理の母親を直視したり、面と向かって口をきいたりしてはならない。シベリアの一部の民族集団のように、義理の両親の名前を口に出すことすら禁じていた社会もある。アフリカの父系社会の多くでは、また、母方のおじとおいの間に一種特殊な関係がみられることがある。南アフリカのバトンガの社会にみられる、おいがおじの所有物や食事をからかい半分に盗んでも、しかられもしない、といった例がそれである。このように、ある種の親族との間に冷たい忌避の関係がある反面、別の親族との間に、会えばかならずふざけあったり、悪口を言い合ったり、性的な冗談をおおっぴらに行う「冗談関係」とよばれる制度がみいだされることもある。
個々の親族関係に伴う諸権利・義務、行動様式や態度は、けっしてでたらめに配置されているわけではなく、しばしば互いに体系的に関係づけられている。このような親族体系の研究は、従来、人類学のもっとも実り多い分野の一つである。
[濱本 満]
親族関係の記号
人類学においては、親族関係を表示するのに記号を用いるのが通例である。また、父や母を表す記号は、組み合わせることによって、他の親族を表すことができる。たとえば、母方のおじ=MB(Mother's brother)といったぐあいである。
[濱本 満]
親族集団
親族関係をもとにして構成された親族集団には、さまざまなものがある。家族、とりわけ夫婦と子供からなる核家族は、ほとんど普遍的といってよいほど広くみられる双系的な親族集団である。家族には、ほかに直系家族、拡大家族、合同家族などさまざまな形態が知られている。特定の祖先を共有する人々の集まりである出自集団や、個人を中心に広がる双系的なキンドレッドとよばれる集団なども、多くの社会にみられる親族集団である。
[濱本 満]
法律上の親族
親族は、親類・親戚(しんせき)などとよばれるものと同じものである。ただし、法律上は、(1)6親等内の血族、(2)配偶者、(3)3親等内の姻族に限定される(民法725条)。このように、法律的に親族の範囲を規定することは、第二次世界大戦前の明治民法時代において「家」の外郭団体としての「親族」の存在を明らかにする意味があったし、また、実際に親族が果たす役割も大きかったが、夫婦とその未成熟の子を中心とする現行民法のもとでは、あまり大きな意味をもたない。というのは、ある者の近親であることによってある法律上の効果が与えられるというような場合には、個別的、具体的にその親族の範囲が定められる場合が多い。たとえば、扶養義務を負う親族、相続する権利のある親族、近親婚として結婚が禁止される親族など、重要な場合は、すべてその目的に応じて具体的にその範囲が定められているから、前記の親族の定義はそれらの場合には、まったく不要となるわけである。現在でも前記の親族の範囲が役にたつのは、結婚などの取消し、親権喪失などの請求、後見人や後見監督人の選任・解任などの請求の場合に限られる。また、いずれの場合にせよ、実際の親類づきあいをしているかどうかが法律上の親族であるかどうかにはまったく関係がない。
[高橋康之・野澤正充]
血族・姻族
血族とは、血のつながりのある者同士をいう。養子と養親との間には、本来血のつながりはないが、法律上は養子縁組の日から血族として取り扱われる(法定血族という。民法809条)。それだけでなく、養子は養親の血族との間にも血族関係があるものとして取り扱われる(その逆、すなわち養親と養子の血族との間には親族関係を生じない)。養子縁組による血族関係は離縁によって消滅する。養親が死亡したのちでも、養子は家庭裁判所の許可を得て離縁することによって、養親の血族との親族関係を切ることができる(同法811条6項)。なお、養子縁組によって養子が養親の血族と親族になっても、本来の血族との間の親族関係はそのまま存続するのは、もちろんである。
姻族とは、配偶者の一方と他方の血族との間をいう。妻からみて夫の親や兄弟は姻族であり、親からみれば息子の妻は姻族である。また、子からみて父の後妻や、夫からみて妻の連れ子なども姻族である。姻族関係は、離婚によって消滅する。夫婦の一方が死亡しただけでは姻族関係は当然には消滅しないが(夫が死んでも妻は舅(しゅうと)・姑(しゅうとめ)との姻族関係は切れない)、生存配偶者が姻族関係終了の意思表示(戸籍の届け出による)をすれば、消滅する。
[高橋康之・野澤正充]
直系親・傍系親
直系親とは、自分からみて、父・祖父や、子・孫などのように、直通する系列にある親族をいい、傍系親とは、兄弟姉妹の間、伯叔父母と甥姪(おいめい)の間、いとこ同士のように、共同の祖先によってつながる関係にある者同士をさす。どちらも、血族のほか姻族も含む(息子の妻と父とは直系姻族、妹の夫と兄とは傍系姻族の関係にある)。
[高橋康之・野澤正充]
尊属・卑属
ある人を基準として、親族関係において、その人より先の世代にある者を尊属といい、その人より後の世代にある者を卑属という。直系親・傍系親の分類と結び付いて、直系卑属・傍系尊属などと用いられる。自分の親や祖父母は直系尊属、子や孫は直系卑属、伯叔父母は傍系尊属となる。なお、普通、直系尊属・直系卑属などという場合には、血族だけで姻族は含まれない。
[高橋康之・野澤正充]
親等の数え方
親等とは、親族関係の遠い近いを計る尺度である。直系親の場合には、世代の数がそのまま親等となる(親と子とは1親等、孫と祖父母とは2親等)。傍系親の場合は、その一方から共同の始祖にまでさかのぼり、他の一方に下るまでの世代の数を数えて、これを定める(民法726条)。たとえば、兄弟の間では、その共同の始祖は父母であるから、兄から父まで1世代、さらに父から下って弟まで1世代で、結局兄弟は2親等の親族である。同様に、伯叔父母と甥姪の間は3親等、いとこ同士は4親等である(どちらも共同の始祖は祖父母)。姻族の場合も、血族の場合と同様の計算による(息子の妻と父とは1親等の直系姻族、甥の妻と伯叔父とは3親等の傍系姻族)。なお、配偶者には親等はない。
[高橋康之・野澤正充]