…さらに悉曇学によって言葉についての厳密な感覚をもっていた契沖は,万葉仮名の表記に用字の統一性があることを発見して《和字正濫抄》を著し,〈歴史的仮名遣い〉の基礎を確立した。上記の著作のほかに,古典の注釈書には《厚顔抄》(記紀歌謡の注釈),《古今余材抄》《勢語臆断》《源注拾遺》《百人一首改観抄》などがあり,歌枕の研究として《勝地吐懐篇》,随筆として《河社(かわやしろ)》《円珠庵雑記》などがある。契沖の後世に与えた影響は大きく,荷田春満,賀茂真淵,本居宣長,上田秋成,橘守部らの多くの研究がその成果を取り入れており,契沖は〈古学の始祖〉(本居宣長《初山踏》)として近世古典研究の出発点に位置しているといえる。…
…中世の研究は北村季吟《八代集抄》(1679‐81成立)に総括され,近世の研究に基礎を提供した。契沖の《古今余材抄》(1692成立)は近世的な科学的研究を開始した重要な研究であり,本居宣長《古今和歌集遠鏡(とおかがみ)》(1794成立)は最初の口語訳である。香川景樹《古今和歌集正義》(1835刊)は近世の最もすぐれた《古今集》研究である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」