多剤耐性(読み)たざいたいせい

知恵蔵の解説

多剤耐性

微生物が複数の薬剤に対して抵抗性を持つようになること。特に病原体が複数の薬剤に対して耐性を持つと、治療の選択肢が狭められるため問題となる。
耐性獲得は、病原体が突然変異し、その性質が遺伝形質として伝達されることにより起こる。増殖が活発であったり、遺伝子の転写機構の精度が低い病原体ほど、耐性を獲得しやすい。
がんの場合にも、薬剤を変えて化学療法を何度か受けるうちに複数の薬剤に対して抵抗性を持つようになることが知られているが、公衆衛生上、より深刻な影響をもたらすのは感染症の病原体だ。例えば、結核菌は1950年代から断続的に新しい抗結核薬が開発されてきているが、臨床で広く使用されるようになると耐性のついた菌が現れ、その菌がまた新たな感染を起こすといったことが繰り返されてきている。
医療施設内で体力・免疫力の低下した患者が多剤耐性の病原体に感染すると、他の患者へと感染拡大しやすく、さらに治療が困難で死亡に至るケースも少なくない。初めて多剤耐性菌による院内感染が問題視されたのは、90年代のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)であった。その後、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)、MDRP(多剤耐性緑膿菌)、MDRAB(多剤耐性アシネトバクター・バウマニ)などが次々と見つかり、各施設では感染管理体制を強めて対処に苦慮しているのが現状だ。これらの感染症には通常、カルバペネム、アミノグリコシド、フルオロキノロンの3系統の抗菌薬が用いられるが、すべてに耐性を示す病原体の場合には、国内で承認されている薬剤で使えるものが皆無に近い。
こうした状況は日本国内に限らない。人の移動や医療ツーリズムの影響もあり、海外の医療施設で見つかった耐性菌が日本に持ち込まれる例もある。2010年9月には、ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ1(NDM-1)を産生する新型の多剤耐性菌が、国内の医療施設で初めて確認された。

(石川れい子  ライター / 2010年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

大辞林 第三版の解説

たざいたいせい【多剤耐性】

細菌などの病原体が複数の抗生物質や薬物に対して抵抗性を持つこと。

出典 三省堂大辞林 第三版について 情報

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