…しかし,この伝統的な五十音図の拡充という方法によって,日本語の音節表が作成されることが多いのは,その組織が,字の発音の共通性に従って,縦横に整備しているからで,古来,語源,語釈,てにをは,仮名遣い,活用など国語の研究において尊重された歴史的事実と照応するが,さらにこの図の発生,伝承,実用の沿革が有用性をよく物語る。現存最古の図は醍醐寺蔵の《孔雀経音義(くじやくきようおんぎ)》に見えるもので11世紀初めのものであるが,その起源について悉曇(しつたん)から出たという説(大矢透),国語のために作られたのではなく,外国語学ことに漢字音の反切(はんせつ)のために作られたとする説(橋本進吉),儒家に端を発し,反音を簡明に示すために仮名を用いた図が,日本の語音の組織を明らかにするに足るものに発展したとする説(山田孝雄),悉曇反音を理解しやすくするために悉曇章のひな形を示すものとして作ったとする説(小西甚一)などがあるが,発生の契機や,その後の整備の目的とか暗示,また実用例の多様性を考えると,作者を吉備真備(きびのまきび)個人に帰する伝説が疑わしいことは当然にしても,現存の資料だけからは,決定的な断案が下されない。とにかく,古い図では,行・段の順がまちまちであり,悉曇の母音,子音の順に暗示を得た整理の事実は判然としているが,根底に漢字音や国語の音についての省察が存したことも疑うことができない。…
※「孔雀経音義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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